たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
”コンコン”静寂を破るようにノックの音がする。


フィーアがワゴンにワインと干し肉を乗せて入ってきた。

切れ長の瞳が動いて黙ったままフィーアを見つめる。



「あと3、40分ほどで夕食が出来るそうです」


「そうか」


ユリの香りが一層強くなったことにエルンストが気づく。


フィーアが押しているワゴンの上には一輪のユリが?


何故?と言った表情に気づいたフィーアが説明する。


「ワインと干し肉では風情がなので、ご主人様の目が楽しめればと一つ取って参りました」

小さなグラスにユリの花が一輪だけさしてあった。


「そうか」


いつもの不愛想なエルンストに戻っていることにフィーアは少しがっかりした。


帰り道で見せて下さったお姿は幻だったの?

そう思えてならないほどの変わりようだった。

「このバラの花びらは食えるのか?」

干し肉に添えられた赤い花びらをつまむ。

「いいえ、それは食用ではございません。差し色として添えて見ました」

確かに白い皿に赤が映えている。

「我が家にバラはないと思うが?」

「買い物の帰りに花屋のギードからもらいました」


ギード?男か?エルンストの顔が歪む。

俺の知らないところで何をしているんだ?

ムスっとして干し肉を口に放り込んだ。
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