たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
クルリと背を向けると、「ワゴンはベッドの脇へ置いてくれ」エルンストはベッドに腰掛ける。


「はい」答えながら、フィーアはあることに思い至る。

ご主人様の笑顔を見たことがない。先日、人のことを言っておきながら、ご主人様だって笑わないじゃない。

きっと笑ったほうが絶対素敵なのに。


言われた通りにワゴンを運ぶと、グラスにワインをつぎバラの花びらを一枚浮かべ、それを差し出す。


エルンストは黙って受け取ると一気にそれを口に運び、あっという間にグラスは空になってしまった。


もう一度フィーアはワインをグラスに注ぐ。


赤い液体はグラスの中で跳ねるように弧を描き、花びらは踊る。


「お前.....」フィーアに視線を合わせることなくエルンストが何か言いかける。


「...?」フィーアも黙って首をかしげる。


「お前、剣が使えるのだな」

空のグラスをフィーアに差し出すとおかわりを要求した。
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