たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
エルンストは昼間の城下町での出来事を言っているのだ。

フィーアの心臓が跳ねる。やはり見ておられた。

だけどしらを切るしかない。


「...いいえ」ボトルを持つ手が少しだけ震える。

ワインが勢いよくグラスに注がれバラの花びらがグラスから押し出される。
平静を装っていても体が素直に反応してしまった。

「あっ、申し訳ありません」こぼれたワインを慌ててナプキンでふき取る。


「お前は正直だな。答えは火を見るより明らかだ。剣を使えるな?
あれはどこの流派だ?どうも俺の知るものではない」

その鋭い瞳はフィーアの胸を突き刺す。


「いいえ、わたくしは剣など使えません」


「下らない嘘をつくな。過去を話したくないなら俺も強引には聞かぬ。ただ少しだけお前のことが知りたいのだ。それすらもお前を傷つけてしまうのか?」

穏やかに澄んだ瞳がフィーアを見つめる。

自分を気遣うエルンストの気持ちがフィーアには嬉しかった。
胸が熱くなる。けれど....。

私の過去。フィーアは悩む。話せるものなら話したい。だが果たしてそれが吉と出るか、凶と出るか全く予想がつかない。

だが.....凶と出る気がしてならないフィーアはどうしてもためらってしまう。


「何度も申し上げる通り、剣は使えません」



「ほう?剣術を知らぬと?」

強情なフィーアに少し苛立ちを感じ、意地悪い声で視線を送る。
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