秘密
『4月10《水》午前8時30分』
掲示板に貼られたクラス分けの表を見て、自分のクラスに向かう。校舎内に入り、灰色の螺旋階段をのぼる。自分のクラスのフロアまでのぼり、灰色の渡り廊下を歩く。渡り廊下では髪を染めた不良や、ピアスを開けたホストのようなチャラチャラした奴が談笑していた。僕は無言のまま灰色の渡り廊下を歩き、一年五組の教室のドアを開けた。それと同時に、賑わった教室が視界に入った。クラスの半分以上がすでに来ており、席にも座らず立って喋っている。黒板に席は名簿順で白いチョークで記入されており、前から二列目の席に座った。フックにカバンをかけ、机に突っ伏す。
「私、窓際がよかった〜。」
「スマホのライン、教えて。」
名簿順とか、マジないわ〜。」
もう友だちが出来たのか、それとも昔からの友だちなのか、どうでもいいことで賑やかに喋る。それと同時に、次から次から同じクラスメイトが入ってくる。時間が過ぎるに連れて、教室が人であふれ返る。一年五組の生徒は全員で、30人。今は、28人ぐらいか来ている。
ーーーーーーガラガラーーーーーー。
また、教室のドアガラガラ開いた。その音に反応し、教室の生徒が一斉にドアの方に視線を向けた。
「胸、でか。」
「めっちゃ、綺麗やん。」
「え!誰誰、あの子?」
その子が教室に入った途端、男子生徒と女子生徒がヒソヒソと喋る。男子生徒は興奮気味に話し、女子生徒は眉間にしわを寄せて不満そうだ。
「‥‥‥‥‥」
僕は教室に突っ伏したまま、いつの間にか寝ていた。
「‥‥‥‥‥」
その子も黒板に記入されていた通り名簿順の席に座る。
「君、カワイイね。」
「マジで、カワイイやん。」
「ヤバ!アイドル級!」
「このクラス、大当たりや。神様、ありがとう。」
僕の席の近くに人が急に集まる気配を感じ、むくりと体を起こした。
「‥‥‥‥‥」
近くから声がすると思って視線を向けたら、真後ろの席の美しい女性に男性陣が囲んでいた。その人は女性が見ても本当に美しく思えて、僕はその人にひとめぼれをした。
ーーーーーードクン!
自分の心臓の鼓動が、急に激しくなるのを感じた。経験したこともない大きい心音に、思わず右手を心臓に置く。まるで自分の心臓の鼓動が、早鐘のようだ。
濁りのない若干潤った黒目がちの瞳に、見とれるほど美しい繊細な雪の結晶のような真っ白な柔肌。世の男性を虜にする、きれいな形をした胸。大きくもなければ、小さくもない。胸まで伸びた黒髪のロングヘアーに、すらりとしたモデルのようなスタイル。整った自然な薄いピンク色の唇に、白くて細いきれいな指。
ーーーーーー僕の好みの女性だ。しかも、僕の好きな女性アナウンサーに似てる。
「‥‥‥ゴクリ。」
僕はゴクリと唾を飲み、口を半開きにしたまま、その女性を凝視する。女性は困ったような表情を浮かべ、適当に男性たちの質問に答えている。
「おいコラ!お前、なにさっきからジロジロ見てんねん。」
一人の男子生徒が僕の視線に気づいたのか、机を思いっきりけとばした。ガシャンという大きな音が響き渡り、僕の机がひっくり返る。それと同時に、教室がざわめく。
「きゃーーーー!」
「メガネ、ピンチーーー!」
「あ〜、ガン見死亡。」
「メガネーーーー!」
「メガネ、闘え。負けんな。」
「女性の前で、負けていいんか?」
「お前、絶対童貞やろ。カッコイイところ見せて、好きな女の子に告白しろ。」
「童貞喪失する、絶好のチャンスやぞ。」
他の生徒たちは、興奮した様子で大げさに煽る。誰も止めようともせず、僕の嫌な空気を作る。
「‥‥‥‥」
僕は何事もないように、ひっくり返った机を直そうとする。が、ーーー
「おい、メガネ。無視すんなや。お前からジロジロ見てて、無視はないやろ。」
強い口調で言われて、髪を赤く染めた不良に胸ぐらを掴まれる。背丈は僕より高く、見上げる感じになる。
「別に‥‥‥見るぐらいいいじゃないですか?」
同級生なのになぜか相手に敬語で話す、自分。恐怖のあまり、声が自然と震える。中学生の頃にいじめられていた苦い思い出が、僕を苦しめる。
ーーーーーー完全なフラッシュバックだ。先生、早く来い。何やってんだ。
心の中でそう念じるも、
ーーーーーーボコ!
突然、右頬に強い衝撃が走った。顔がぐにゃりとゆがみ、鈍い痛みが顔全体に広がる。
「いてぇ。」
その不良男子生徒は拳を強く握りしめ、僕の右頬を殴った。僕はその衝撃に耐えられず、その場に倒れた。
「ははは。」
「クスクス。」
「なに、あのキモメガネ。
「キモ!」
「あいつ、桑山とかいう奴ちゃん。」
「いけ、メガネ!やり返せ。闘え、負けんな。」
「つまらんぞ、メガネ。」
「桑山。お前、がんばれや。」
何がそんなおもしろいのか、僕が殴られた姿を見て教室中の人たちが大笑いをする。誰も心配しない。誰も止めない。
ーーーーーーまだ、大丈夫だ。療育手帳がみんなにばれた訳ではないし、このまま我慢すれば時間が解決してくれる。
そう強く思って、ポケットに入れた療育手帳を右手で確認する。ポケットに入れた療育手帳の感触があり、ほっと安心する。
「おいメガネ!なに、安心してんねん。コラ!」
髪の毛を赤く染めた不良に罵声を浴びせながら、倒れている僕の体をぐっと右足で踏まれる。新品だった真っ白なカッターシャツが、一瞬で汚れた。
ーーーーーー痛い。死ね。弱者をいじめて、何が楽しい?笑ってないで、助けろ。先生、早く来い。何やってんだ。
僕は心の中でそう強く思い、うずくまる。
「ご、ごめんなさい。でも、君を見ていた訳では‥‥‥‥‥」
「いやいや、ちょっと待って。見てたやん。めっちゃ、ガン見してたやん。嘘は、あかんて。もうお前、狂ってるやろ。自分のやったことすら、記憶にないなんて。」
僕の弁解も全く聞き入れてもらえず、一方的にまくし立てられる。そして、みぞおちをボールのように蹴られた。
「かは。」
腹部に強い痛みを感じ、僕は口から唾を吐き出した。
ーーーーーーひどい。最低野郎だ。悪魔だ。死ね。狂っているのは、どっちだ。お前だろ。
「見てたな。」
「ガン見してたな。」
ホラ吹きメガネ、最低やぞ。」
「女の前で、嘘はあかん。それは、絶対やったあかん行為や。」
「今のは、嘘ついた罰。」
「そんなに痛くないやろ。大げさやねん。下手な演技は、顔だけのアイドルで十分やぞ。」
周囲の人たちは、あざ笑いながら野次を飛ばす。手をパンパンと叩きながら、口に手を当てて煽る。みんな、冷たい目だ。周囲から聞こえる誹謗中傷が、僕の心を苦しめる。
「‥‥‥‥‥‥」
視線を僕の好みの女性に移すと、どこか遠くを見ていた。僕のことを気にすることもなく、遠くを見ている。そして彼女は席から立ち上がり、その視線の方向に引き寄せられるように歩き出した。
「‥‥‥‥‥‥」
僕は気を失うぐらい殴られながらも、彼女の方に視線を向けていた。彼女が歩いた方向は、教室の窓だった。彼女は教室の窓の外から、京都の桜と街を眺めている。教室の窓の外から見える、ピンク色の花びらが春風に吹かれて散っている。
ーーーーーーガラガラーーーーーー!
「席に着いて。」
そのとき、また教室のドアが開いた。教室内に老化した女性の低い声が聞こえ、生徒たちが慌てて自分の席に座る。
「‥‥‥‥‥‥」
僕も汚れたカッターシャツをパンパンと両手で払い、自分の席に座る。
「おはようございます。今日から、このクラスの担任を務めさせていただきます、佐藤順子と言います。今日から、新学期が始まります。みなさんの顔と名前を早く覚え、楽しいクラスにしたいと思っております。」
佐藤順子というメガネをかけた、ブタのように太った肥満女性教師。足も太く、背は低い。おまけに、五十代後半ぐらい。その佐藤順子が教卓に出席簿を置き、教室の生徒たちを見回す。
「では、出席を取っていきます。」
佐藤順子先生が出席簿を左手でつかみ、中身を開いた。そして、名前を読み上げる。
「浅井由香さん。」
「はい。」
「一条昇さん。」
「はい。」
「井上優さん。」
「はい。」
次々に名前が呼ばれていく。そして、ーーー
「木村涼さん。」
「‥‥‥‥‥」
「木村涼さん。」
佐藤順子先生が、もう一度名前を呼ぶ。
「‥‥‥‥‥‥」
「木村涼さんは、お休みですか?分かりました。」
返事が返ってこなかったので、佐藤順子先生はボールペンを取り出して出席簿に欠席と書く。
「桑山博登さん。」
「はい。」
「佐伯美希さん。」
「‥‥‥‥‥‥」
「佐伯美希さん。」
「は、はい。」
数秒遅れて柔らかい声が、真後ろから聞こえた。彼女のフルネームを聞いただけで、緊張で自分の体温が急上昇する。
ーーーーーー自分でもコントロールできない緊張が、さらに緊張する。
「自分の名前を呼ばれたら、一回で返事してください。」
「‥‥‥‥‥‥はい。」
佐藤順子先生がそう指摘すると、美希は、小さな声で返事をした。次々に名前を呼ばれ、あっという間にクラス全員の名前が呼ばれた。
「今日は入学式なので、午前中で終了です。なので今日は、学校内の規則と交通手段の説明をします。それからアルバイトの説明をして、みんなで教頭先生のあいさつを聞きに行きますそして本日は、終了という形になっています。」
佐藤順子先生が学校の説明をしている最中、寝ている生徒が大半を占めていた。
掲示板に貼られたクラス分けの表を見て、自分のクラスに向かう。校舎内に入り、灰色の螺旋階段をのぼる。自分のクラスのフロアまでのぼり、灰色の渡り廊下を歩く。渡り廊下では髪を染めた不良や、ピアスを開けたホストのようなチャラチャラした奴が談笑していた。僕は無言のまま灰色の渡り廊下を歩き、一年五組の教室のドアを開けた。それと同時に、賑わった教室が視界に入った。クラスの半分以上がすでに来ており、席にも座らず立って喋っている。黒板に席は名簿順で白いチョークで記入されており、前から二列目の席に座った。フックにカバンをかけ、机に突っ伏す。
「私、窓際がよかった〜。」
「スマホのライン、教えて。」
名簿順とか、マジないわ〜。」
もう友だちが出来たのか、それとも昔からの友だちなのか、どうでもいいことで賑やかに喋る。それと同時に、次から次から同じクラスメイトが入ってくる。時間が過ぎるに連れて、教室が人であふれ返る。一年五組の生徒は全員で、30人。今は、28人ぐらいか来ている。
ーーーーーーガラガラーーーーーー。
また、教室のドアガラガラ開いた。その音に反応し、教室の生徒が一斉にドアの方に視線を向けた。
「胸、でか。」
「めっちゃ、綺麗やん。」
「え!誰誰、あの子?」
その子が教室に入った途端、男子生徒と女子生徒がヒソヒソと喋る。男子生徒は興奮気味に話し、女子生徒は眉間にしわを寄せて不満そうだ。
「‥‥‥‥‥」
僕は教室に突っ伏したまま、いつの間にか寝ていた。
「‥‥‥‥‥」
その子も黒板に記入されていた通り名簿順の席に座る。
「君、カワイイね。」
「マジで、カワイイやん。」
「ヤバ!アイドル級!」
「このクラス、大当たりや。神様、ありがとう。」
僕の席の近くに人が急に集まる気配を感じ、むくりと体を起こした。
「‥‥‥‥‥」
近くから声がすると思って視線を向けたら、真後ろの席の美しい女性に男性陣が囲んでいた。その人は女性が見ても本当に美しく思えて、僕はその人にひとめぼれをした。
ーーーーーードクン!
自分の心臓の鼓動が、急に激しくなるのを感じた。経験したこともない大きい心音に、思わず右手を心臓に置く。まるで自分の心臓の鼓動が、早鐘のようだ。
濁りのない若干潤った黒目がちの瞳に、見とれるほど美しい繊細な雪の結晶のような真っ白な柔肌。世の男性を虜にする、きれいな形をした胸。大きくもなければ、小さくもない。胸まで伸びた黒髪のロングヘアーに、すらりとしたモデルのようなスタイル。整った自然な薄いピンク色の唇に、白くて細いきれいな指。
ーーーーーー僕の好みの女性だ。しかも、僕の好きな女性アナウンサーに似てる。
「‥‥‥ゴクリ。」
僕はゴクリと唾を飲み、口を半開きにしたまま、その女性を凝視する。女性は困ったような表情を浮かべ、適当に男性たちの質問に答えている。
「おいコラ!お前、なにさっきからジロジロ見てんねん。」
一人の男子生徒が僕の視線に気づいたのか、机を思いっきりけとばした。ガシャンという大きな音が響き渡り、僕の机がひっくり返る。それと同時に、教室がざわめく。
「きゃーーーー!」
「メガネ、ピンチーーー!」
「あ〜、ガン見死亡。」
「メガネーーーー!」
「メガネ、闘え。負けんな。」
「女性の前で、負けていいんか?」
「お前、絶対童貞やろ。カッコイイところ見せて、好きな女の子に告白しろ。」
「童貞喪失する、絶好のチャンスやぞ。」
他の生徒たちは、興奮した様子で大げさに煽る。誰も止めようともせず、僕の嫌な空気を作る。
「‥‥‥‥」
僕は何事もないように、ひっくり返った机を直そうとする。が、ーーー
「おい、メガネ。無視すんなや。お前からジロジロ見てて、無視はないやろ。」
強い口調で言われて、髪を赤く染めた不良に胸ぐらを掴まれる。背丈は僕より高く、見上げる感じになる。
「別に‥‥‥見るぐらいいいじゃないですか?」
同級生なのになぜか相手に敬語で話す、自分。恐怖のあまり、声が自然と震える。中学生の頃にいじめられていた苦い思い出が、僕を苦しめる。
ーーーーーー完全なフラッシュバックだ。先生、早く来い。何やってんだ。
心の中でそう念じるも、
ーーーーーーボコ!
突然、右頬に強い衝撃が走った。顔がぐにゃりとゆがみ、鈍い痛みが顔全体に広がる。
「いてぇ。」
その不良男子生徒は拳を強く握りしめ、僕の右頬を殴った。僕はその衝撃に耐えられず、その場に倒れた。
「ははは。」
「クスクス。」
「なに、あのキモメガネ。
「キモ!」
「あいつ、桑山とかいう奴ちゃん。」
「いけ、メガネ!やり返せ。闘え、負けんな。」
「つまらんぞ、メガネ。」
「桑山。お前、がんばれや。」
何がそんなおもしろいのか、僕が殴られた姿を見て教室中の人たちが大笑いをする。誰も心配しない。誰も止めない。
ーーーーーーまだ、大丈夫だ。療育手帳がみんなにばれた訳ではないし、このまま我慢すれば時間が解決してくれる。
そう強く思って、ポケットに入れた療育手帳を右手で確認する。ポケットに入れた療育手帳の感触があり、ほっと安心する。
「おいメガネ!なに、安心してんねん。コラ!」
髪の毛を赤く染めた不良に罵声を浴びせながら、倒れている僕の体をぐっと右足で踏まれる。新品だった真っ白なカッターシャツが、一瞬で汚れた。
ーーーーーー痛い。死ね。弱者をいじめて、何が楽しい?笑ってないで、助けろ。先生、早く来い。何やってんだ。
僕は心の中でそう強く思い、うずくまる。
「ご、ごめんなさい。でも、君を見ていた訳では‥‥‥‥‥」
「いやいや、ちょっと待って。見てたやん。めっちゃ、ガン見してたやん。嘘は、あかんて。もうお前、狂ってるやろ。自分のやったことすら、記憶にないなんて。」
僕の弁解も全く聞き入れてもらえず、一方的にまくし立てられる。そして、みぞおちをボールのように蹴られた。
「かは。」
腹部に強い痛みを感じ、僕は口から唾を吐き出した。
ーーーーーーひどい。最低野郎だ。悪魔だ。死ね。狂っているのは、どっちだ。お前だろ。
「見てたな。」
「ガン見してたな。」
ホラ吹きメガネ、最低やぞ。」
「女の前で、嘘はあかん。それは、絶対やったあかん行為や。」
「今のは、嘘ついた罰。」
「そんなに痛くないやろ。大げさやねん。下手な演技は、顔だけのアイドルで十分やぞ。」
周囲の人たちは、あざ笑いながら野次を飛ばす。手をパンパンと叩きながら、口に手を当てて煽る。みんな、冷たい目だ。周囲から聞こえる誹謗中傷が、僕の心を苦しめる。
「‥‥‥‥‥‥」
視線を僕の好みの女性に移すと、どこか遠くを見ていた。僕のことを気にすることもなく、遠くを見ている。そして彼女は席から立ち上がり、その視線の方向に引き寄せられるように歩き出した。
「‥‥‥‥‥‥」
僕は気を失うぐらい殴られながらも、彼女の方に視線を向けていた。彼女が歩いた方向は、教室の窓だった。彼女は教室の窓の外から、京都の桜と街を眺めている。教室の窓の外から見える、ピンク色の花びらが春風に吹かれて散っている。
ーーーーーーガラガラーーーーーー!
「席に着いて。」
そのとき、また教室のドアが開いた。教室内に老化した女性の低い声が聞こえ、生徒たちが慌てて自分の席に座る。
「‥‥‥‥‥‥」
僕も汚れたカッターシャツをパンパンと両手で払い、自分の席に座る。
「おはようございます。今日から、このクラスの担任を務めさせていただきます、佐藤順子と言います。今日から、新学期が始まります。みなさんの顔と名前を早く覚え、楽しいクラスにしたいと思っております。」
佐藤順子というメガネをかけた、ブタのように太った肥満女性教師。足も太く、背は低い。おまけに、五十代後半ぐらい。その佐藤順子が教卓に出席簿を置き、教室の生徒たちを見回す。
「では、出席を取っていきます。」
佐藤順子先生が出席簿を左手でつかみ、中身を開いた。そして、名前を読み上げる。
「浅井由香さん。」
「はい。」
「一条昇さん。」
「はい。」
「井上優さん。」
「はい。」
次々に名前が呼ばれていく。そして、ーーー
「木村涼さん。」
「‥‥‥‥‥」
「木村涼さん。」
佐藤順子先生が、もう一度名前を呼ぶ。
「‥‥‥‥‥‥」
「木村涼さんは、お休みですか?分かりました。」
返事が返ってこなかったので、佐藤順子先生はボールペンを取り出して出席簿に欠席と書く。
「桑山博登さん。」
「はい。」
「佐伯美希さん。」
「‥‥‥‥‥‥」
「佐伯美希さん。」
「は、はい。」
数秒遅れて柔らかい声が、真後ろから聞こえた。彼女のフルネームを聞いただけで、緊張で自分の体温が急上昇する。
ーーーーーー自分でもコントロールできない緊張が、さらに緊張する。
「自分の名前を呼ばれたら、一回で返事してください。」
「‥‥‥‥‥‥はい。」
佐藤順子先生がそう指摘すると、美希は、小さな声で返事をした。次々に名前を呼ばれ、あっという間にクラス全員の名前が呼ばれた。
「今日は入学式なので、午前中で終了です。なので今日は、学校内の規則と交通手段の説明をします。それからアルバイトの説明をして、みんなで教頭先生のあいさつを聞きに行きますそして本日は、終了という形になっています。」
佐藤順子先生が学校の説明をしている最中、寝ている生徒が大半を占めていた。