秘密
『4月11日《木》午後4時30分』
ーーーーーー会議室ーーーーーー
あの後、僕は職員室に呼ばれ、担任の先生から反省文を大量に渡された。どうやった経緯でハサミで投げたか?なんで、ハサミを投げたのか?自分がやった行動に、しっかり反省出来てるか?それを反省文にしっかり書いて、二週間後の学校に提出するように言われた。
ーーーーーーつまり僕は、二週間の謹慎処分を受けたのだ。
15平米程度の狭い会議室。長机が中央に配置されており、それを囲むようにパイプ椅子が四脚置いてある。
母。僕。担任の佐藤先生。教頭先生。みんなが帰った後、担任の佐藤先生が僕の家に連絡したのだ。僕と母が隣同士で座り、先生とは向かい合わせで座る。
「今まで私も長いこと教師をやっておりますが、こんなハサミを投げる生徒は初めて見ました。」
重い空気の中、担任の佐藤先生が口を開いた。呆れたような表情を浮かべ、首を何度もかしげている。そして、長机に肘をつく。
「すみません。すみません。」
母が、謝る。ピンクのハンカチで涙を拭い、ペコペコと頭を下げる。平謝りだ。
ーーーーーーうざ〜。てか、お前らのせいだからな。お前らが療育手帳を学校に持って行かせたから、こうなったんだからな。全ての原因は、お前らやしな。分かったか、買い物依存症のバァバァ。それと、家だけ偉そうに威張ってる、エロジィジィ。
「まぁ、お母さま落ち着いて。お母様が悪いことしたわけではありませんから‥‥‥」
教頭先生が、ぎこちない笑みを浮かべて母をなだめる。
「しかし、お母さまも大変ですね。こんな子が産まれたら、育てるのもしんどいでしょ。家でも、こんな危険な感じの子なんですか?」
佐藤順子が母をなだめた後、ジロリと僕を見た。瞳の奥は異常に冷たく、僕のことを完全に見下しているような目だ。
「すみません、先生方。多大なご迷惑をおかけしました。家でもよく父と叱っておきますので‥‥‥‥‥‥」
母は涙ながらに話し、礼儀正しく先生方に謝る。
「‥‥‥‥‥分かりました。では、家で反省文を書いて、二週間後学校に提出してください。」
そう言って教頭先生はパイプ椅子から立ち上がり、会議室から出た。
「お母様のお気持ちは十分、分かりましたから。でも、二週間後学校に戻って来ても、桑山君みたいな危険な子を教育していく自信は我々は難しと考えて思っています。家でも教育がしんどいのなら、施設をお勧めしますが‥‥‥‥‥」
そう言って佐藤順子先生も、教頭先生と同じように会議室から出た。
『4月11日《木》午後11時12分』
太陽はとっくに西に沈み、目を閉じているかのように真っ暗な夜空を迎えていた。果てしない夜空には黄色い満月が浮かんでおり、昼間と違って夜風が涼しく吹く。僕の心のように真っ暗な夜空に、一際目立つ懐中電灯のように輝いている満月。今日の夜空は星が少ないせいか、より一層満月が輝きを増しているように感じる。平日のこの時間帯にもなると、近所の家の部屋の灯りも消え、明日の仕事や学校に行くために早く眠りに入る人が多い。もちろん、愛犬のゴンは眠っていた。
ーーーーーーいいなぁ。
正座しながら心の中でそう思った僕だが、ーーーーーー
「なんでこんな変な子が、私のお腹から産まれてきたのかしら?人に向かって、ハサミを投げるなんて‥‥‥‥‥‥」
母の嗚咽声が、僕の耳に苦しく聞こえた。母はフローリングの床に両膝をついて、顔を覆って涙を流している。
「博登!高校生にもなって、常識的な判断も分からへんのか?」
ダイニングチェアに足を組んで王様のように偉そうに座っていた父親が、僕に激怒する。そして、僕の頭部を握っていたリモコンで叩く。コツンという音が、僕の頭部から聞こえた。
「やめてー!博登は普通の子よりバカなのに、これ以上バカになったらどうするの?」
リモコンで叩かれた僕の姿を見た母親が、父親にすがりつく。
「大丈夫や。博登は限界までバカになっとるから、これ以上バカになることはない。」
父親が、きっぱりと言う。
「‥‥‥‥‥」
僕は奥歯を噛み締め、キッと母親を睨んだ。僕の視界がぼやけていたのは、涙がうっすらと溜まっていたからだろう。
「なに、泣いてんにゃあ。泣きたいのは、こっちやわ。こんな子でも、育てていかないとあかんのやから。」
母親が顔を覆って涙を拭い、金切声で言う。
「博登。なんで、ハサミなんか投げたんや。本気で分からなくて投げたのか、それとも、理由があって投げたのか?」
父親は眉間にしわを寄せ、問い詰めるように僕に訊く。
ーーーーーー療育手帳をみんなにばれて、いじめられたからです。それが嫌で、ハサミを投げました。分かりましたか?世の中学歴と決めつけている、道徳心皆無のお二人さん。
しかし、そんなこと言えない僕は、ーーーーーー
「‥‥‥‥‥‥」
口を真一文字に結んだまま、うつむく。
「チィ。もう、こんなバカとは付き合ってられん。もう、寝ろ。」
父はものすごい剣幕で怒り、ダイニングテーブルを拳でドンと叩いた。その父親の指示に従って、母親が泣きながら自分の部屋に戻った。
「‥‥‥‥‥」
僕もその場から立ち上がり、二階の自分の寝室に戻ろうとする。
『最新のニュースをお伝えします。風俗嬢強姦事件で、新たな動きかありました。被害者に遭われた娘さんの父親が、加害者の男子大学生数名を次々にナイフで切りつけました。現場には大量の血痕が残り、切りつけられた男子大学生一人は、失血死。後の数名は、胸や腕などを数カ所切られる重傷だということです。犯人の動機は、娘さんの復讐だと思われます。以上、ニュースをお伝えしました。』
ーーーーーーいた。僕より年上にもかかわらず、常識を知らない本物の殺人鬼が。
『4月12《金》午前8時35分』
真っ白な天井が、僕の目に映る。
「‥‥‥‥」
いつもの平日の朝と比べて、頭と目がやけにスッキリしていることに不安を感じる。手元のiPadを手に取り、閉じてあるiPadカバーを開ける。ヤフーのアプリと、ユーチューブのアプリ。僕のダウンロードしているアプリが、iPadの画面上に表示される。僕のダウンロードしているアプリは少ないが、十分楽しめる。アプリの上に、今の時間が表示されている。
ーーーーーー8時40分ーーーーーー
「‥‥‥‥‥‥」
ほんのわずかな時間、iPadの画面上に表示されている時間を目を細めて見る。
「はぁ〜。平日の朝だというのに、学校に行く必要がなくなったら起こさなくなるのか‥‥‥‥‥」
僕は深いため息を吐いた後、シングルベッドから起き上がった。そして体を大きく伸ばし、iPadを持ってリビングに降りた。もちろんリビングには誰もおらず、朝食の準備と食事代三千円。それと、母親の置き手紙と思われる、白い紙。それらが、テーブルの上に置かれいた。
「‥‥‥‥‥‥」
準備されていた朝食の食パンの上にキャラメルソースをバターナイフで塗り、その上に、バターをひとかけら乗せる。そして母親の書き置きと思われる、白い紙に目をやる。
《夕方までには、帰ります。反省文をしっかり書いて、もう二度と親を泣かすことをしないでください。昼食は、好きな物を食べてください。母親。》
「チッ、ウザ〜。勝手に泣いてるのは、そっちだろ。大体療育手帳を学校に持って行かせたからこそ、こんな風になったんじゃーねかー。」
僕は、母親の置き手紙の白い紙をクシャクシャにゴミ場に投げ捨てた。そして、朝食の食版を食べた。いつもならキャラメルソースの味とバターの味が口いっぱいに広がっておいしく感じられるのに、今日は怒っているせいか、おいしく感じられなかった。
「は〜。」
僕の口から、自然と深いため息が漏れた。正直言って、謹慎処分は最高に嬉しかった。平日なのに学校を休めるし、朝から口うるさい父親の姿も母親の姿も見なくて済むから。でも、ーーーーーー
「美希さん‥‥‥‥‥‥」
僕の口が、切なく彼女の名前を呼んだ。今の僕は自由な休日よりも、彼女に会う方が楽しみだった。
「反省文‥‥‥‥‥」
僕に課せられた重い言葉は、弱々しく呟いた。この言葉は言うだけで、僕のモチベーションが下がる。僕は誰かに掴まれているような重い足取りで、カバンに入っている反省文を手に取った。反省文は10枚ぐらいあり、これを書かない限り美希さんとは会う事が出来ないらしい。
「まぁ。反省文ぐらい書かなくても、二週間経てば学校に戻って来れるだろう。」
僕は都合よく解釈し、反省文をもう一度カバンに戻した。そしてパジャマから、動きやすいラフな服装に着替える。上はカジュアルな長いTシャツを着て、その上に薄手の上着を着る。下は、メンズの青いジーパンを履いた。それから財布に4万円ぐらい入れ、外に出かけた。
ーーーーーー会議室ーーーーーー
あの後、僕は職員室に呼ばれ、担任の先生から反省文を大量に渡された。どうやった経緯でハサミで投げたか?なんで、ハサミを投げたのか?自分がやった行動に、しっかり反省出来てるか?それを反省文にしっかり書いて、二週間後の学校に提出するように言われた。
ーーーーーーつまり僕は、二週間の謹慎処分を受けたのだ。
15平米程度の狭い会議室。長机が中央に配置されており、それを囲むようにパイプ椅子が四脚置いてある。
母。僕。担任の佐藤先生。教頭先生。みんなが帰った後、担任の佐藤先生が僕の家に連絡したのだ。僕と母が隣同士で座り、先生とは向かい合わせで座る。
「今まで私も長いこと教師をやっておりますが、こんなハサミを投げる生徒は初めて見ました。」
重い空気の中、担任の佐藤先生が口を開いた。呆れたような表情を浮かべ、首を何度もかしげている。そして、長机に肘をつく。
「すみません。すみません。」
母が、謝る。ピンクのハンカチで涙を拭い、ペコペコと頭を下げる。平謝りだ。
ーーーーーーうざ〜。てか、お前らのせいだからな。お前らが療育手帳を学校に持って行かせたから、こうなったんだからな。全ての原因は、お前らやしな。分かったか、買い物依存症のバァバァ。それと、家だけ偉そうに威張ってる、エロジィジィ。
「まぁ、お母さま落ち着いて。お母様が悪いことしたわけではありませんから‥‥‥」
教頭先生が、ぎこちない笑みを浮かべて母をなだめる。
「しかし、お母さまも大変ですね。こんな子が産まれたら、育てるのもしんどいでしょ。家でも、こんな危険な感じの子なんですか?」
佐藤順子が母をなだめた後、ジロリと僕を見た。瞳の奥は異常に冷たく、僕のことを完全に見下しているような目だ。
「すみません、先生方。多大なご迷惑をおかけしました。家でもよく父と叱っておきますので‥‥‥‥‥‥」
母は涙ながらに話し、礼儀正しく先生方に謝る。
「‥‥‥‥‥分かりました。では、家で反省文を書いて、二週間後学校に提出してください。」
そう言って教頭先生はパイプ椅子から立ち上がり、会議室から出た。
「お母様のお気持ちは十分、分かりましたから。でも、二週間後学校に戻って来ても、桑山君みたいな危険な子を教育していく自信は我々は難しと考えて思っています。家でも教育がしんどいのなら、施設をお勧めしますが‥‥‥‥‥」
そう言って佐藤順子先生も、教頭先生と同じように会議室から出た。
『4月11日《木》午後11時12分』
太陽はとっくに西に沈み、目を閉じているかのように真っ暗な夜空を迎えていた。果てしない夜空には黄色い満月が浮かんでおり、昼間と違って夜風が涼しく吹く。僕の心のように真っ暗な夜空に、一際目立つ懐中電灯のように輝いている満月。今日の夜空は星が少ないせいか、より一層満月が輝きを増しているように感じる。平日のこの時間帯にもなると、近所の家の部屋の灯りも消え、明日の仕事や学校に行くために早く眠りに入る人が多い。もちろん、愛犬のゴンは眠っていた。
ーーーーーーいいなぁ。
正座しながら心の中でそう思った僕だが、ーーーーーー
「なんでこんな変な子が、私のお腹から産まれてきたのかしら?人に向かって、ハサミを投げるなんて‥‥‥‥‥‥」
母の嗚咽声が、僕の耳に苦しく聞こえた。母はフローリングの床に両膝をついて、顔を覆って涙を流している。
「博登!高校生にもなって、常識的な判断も分からへんのか?」
ダイニングチェアに足を組んで王様のように偉そうに座っていた父親が、僕に激怒する。そして、僕の頭部を握っていたリモコンで叩く。コツンという音が、僕の頭部から聞こえた。
「やめてー!博登は普通の子よりバカなのに、これ以上バカになったらどうするの?」
リモコンで叩かれた僕の姿を見た母親が、父親にすがりつく。
「大丈夫や。博登は限界までバカになっとるから、これ以上バカになることはない。」
父親が、きっぱりと言う。
「‥‥‥‥‥」
僕は奥歯を噛み締め、キッと母親を睨んだ。僕の視界がぼやけていたのは、涙がうっすらと溜まっていたからだろう。
「なに、泣いてんにゃあ。泣きたいのは、こっちやわ。こんな子でも、育てていかないとあかんのやから。」
母親が顔を覆って涙を拭い、金切声で言う。
「博登。なんで、ハサミなんか投げたんや。本気で分からなくて投げたのか、それとも、理由があって投げたのか?」
父親は眉間にしわを寄せ、問い詰めるように僕に訊く。
ーーーーーー療育手帳をみんなにばれて、いじめられたからです。それが嫌で、ハサミを投げました。分かりましたか?世の中学歴と決めつけている、道徳心皆無のお二人さん。
しかし、そんなこと言えない僕は、ーーーーーー
「‥‥‥‥‥‥」
口を真一文字に結んだまま、うつむく。
「チィ。もう、こんなバカとは付き合ってられん。もう、寝ろ。」
父はものすごい剣幕で怒り、ダイニングテーブルを拳でドンと叩いた。その父親の指示に従って、母親が泣きながら自分の部屋に戻った。
「‥‥‥‥‥」
僕もその場から立ち上がり、二階の自分の寝室に戻ろうとする。
『最新のニュースをお伝えします。風俗嬢強姦事件で、新たな動きかありました。被害者に遭われた娘さんの父親が、加害者の男子大学生数名を次々にナイフで切りつけました。現場には大量の血痕が残り、切りつけられた男子大学生一人は、失血死。後の数名は、胸や腕などを数カ所切られる重傷だということです。犯人の動機は、娘さんの復讐だと思われます。以上、ニュースをお伝えしました。』
ーーーーーーいた。僕より年上にもかかわらず、常識を知らない本物の殺人鬼が。
『4月12《金》午前8時35分』
真っ白な天井が、僕の目に映る。
「‥‥‥‥」
いつもの平日の朝と比べて、頭と目がやけにスッキリしていることに不安を感じる。手元のiPadを手に取り、閉じてあるiPadカバーを開ける。ヤフーのアプリと、ユーチューブのアプリ。僕のダウンロードしているアプリが、iPadの画面上に表示される。僕のダウンロードしているアプリは少ないが、十分楽しめる。アプリの上に、今の時間が表示されている。
ーーーーーー8時40分ーーーーーー
「‥‥‥‥‥‥」
ほんのわずかな時間、iPadの画面上に表示されている時間を目を細めて見る。
「はぁ〜。平日の朝だというのに、学校に行く必要がなくなったら起こさなくなるのか‥‥‥‥‥」
僕は深いため息を吐いた後、シングルベッドから起き上がった。そして体を大きく伸ばし、iPadを持ってリビングに降りた。もちろんリビングには誰もおらず、朝食の準備と食事代三千円。それと、母親の置き手紙と思われる、白い紙。それらが、テーブルの上に置かれいた。
「‥‥‥‥‥‥」
準備されていた朝食の食パンの上にキャラメルソースをバターナイフで塗り、その上に、バターをひとかけら乗せる。そして母親の書き置きと思われる、白い紙に目をやる。
《夕方までには、帰ります。反省文をしっかり書いて、もう二度と親を泣かすことをしないでください。昼食は、好きな物を食べてください。母親。》
「チッ、ウザ〜。勝手に泣いてるのは、そっちだろ。大体療育手帳を学校に持って行かせたからこそ、こんな風になったんじゃーねかー。」
僕は、母親の置き手紙の白い紙をクシャクシャにゴミ場に投げ捨てた。そして、朝食の食版を食べた。いつもならキャラメルソースの味とバターの味が口いっぱいに広がっておいしく感じられるのに、今日は怒っているせいか、おいしく感じられなかった。
「は〜。」
僕の口から、自然と深いため息が漏れた。正直言って、謹慎処分は最高に嬉しかった。平日なのに学校を休めるし、朝から口うるさい父親の姿も母親の姿も見なくて済むから。でも、ーーーーーー
「美希さん‥‥‥‥‥‥」
僕の口が、切なく彼女の名前を呼んだ。今の僕は自由な休日よりも、彼女に会う方が楽しみだった。
「反省文‥‥‥‥‥」
僕に課せられた重い言葉は、弱々しく呟いた。この言葉は言うだけで、僕のモチベーションが下がる。僕は誰かに掴まれているような重い足取りで、カバンに入っている反省文を手に取った。反省文は10枚ぐらいあり、これを書かない限り美希さんとは会う事が出来ないらしい。
「まぁ。反省文ぐらい書かなくても、二週間経てば学校に戻って来れるだろう。」
僕は都合よく解釈し、反省文をもう一度カバンに戻した。そしてパジャマから、動きやすいラフな服装に着替える。上はカジュアルな長いTシャツを着て、その上に薄手の上着を着る。下は、メンズの青いジーパンを履いた。それから財布に4万円ぐらい入れ、外に出かけた。