こゝろ
佐久間さんと滝さんがファミレスの駐車場で、ガラス窓の向こう、手を振るのを振り返して、日野さんの方をチラッと見ると、ずっとスマホをいじったまま、勉強する気配は一切感じられませんでした。
「日野さん。勉強しないんですか?」
そう訊いてみると、日野さんはまたスマホに視線を向けたまま、「うん。」と言いました。
「勉強は単なる口実。」
「口実……ですか?」
「そう、口実。だってめんどくさいじゃん、ゲーセン。」
それから日野さんはやっと視線をスマホから私に向けました。
「日野さんってゲームセンター好きじゃないんですか?」
「なんでそう思ったわけ?」
「だって、日野さん、ゲームセンターに行くといつも楽しそうなので、てっきり好きなんだとばかり思ってました。」
「あー、あれね。」日野さんはオレンジジュースのストローを指で潰しました。
「合わせてるだけ。」
「合わせてるだけ……ですか?」
「だって、みんなが楽しんでる中、一人つまんなそうなのがいたら、正直冷めるっしょ?」
私は内心、とても驚きました。私も楽しくないことでも無理矢理楽しそうに演じる時があるのですが、日野さんもそれと全く同じだったようです。