こゝろ
そう言って、日野さんはカバンと伝票を持って、立ち上がりました。
「え、もう帰るんですか?」
「敬語が直ったらいてあげてもいいけど?」
私は性懲りもなくまた敬語を使ってしまいました。恥ずかしくなり、でも日野さんともっとお話がしたい。その気持ちを勇気に変えて、私は初めて心を開きました。
「……もうちょっとお話したいな……って。」
「やればできるじゃん!」
日野さんは、「えらい、えらい。」と言って、私の頭を2度撫でてくれました。私の中で2種類の恥ずかしさが拮抗していました。
「でも、ごめん。私の家、門限厳しいんだ。だから今日はここまで。」
「そうですか……あ、いや、そっか……。それは残念です……いや、残念だな。」
「そこまで無理しなくていいよ。」
日野さんはお腹を抱えて笑い、私の顔はみるみる紅潮していきました。
「そこまで笑わなくていいで……いいじゃん!」
「ほら、また!」
日野さんの笑ってる姿を見ると、なんだか私も嬉しくなって、おかしくなって、思わず笑ってしまいました。