こゝろ
3on3の練習も島原くんは、パッとしません。自分ではほとんどシュートを打ちに行かず、どんなにいいところでも味方にパスを出して、それをカットされます。
監督が「島原ー! 自分で行けよ!」と怒鳴るのも無理はありません。私も心の中で、「打て、島原くん!」と拳を握って叫んだくらいですから。
でも、パスを出している相手をよく見ると、島原くんの優しさに気づくことができます。
彼は、1年生や2年生の補欠のメンバーにシュートを打たせてあげようとパスを出していたんです。
普通、人は考えます。「レギュラーをもぎ取ってやろう。」と。
しかし、島原くんの場合は、自分が上手くなることよりも、チーム全体が上手くなるように。そして、チーム全体が腐らずに楽しんでバスケをすることを望んでいるようでした。
マネージャーさんにも「いつもありがとう。」と優しく声をかけたり、怪我をして筋トレをしている仲間にも、「怪我が治った時のために、下半身鍛えとけよ!」と笑ってじゃれ合います。
そういうところをみんな知っているから、あんまりバスケが上手くない島原くんをキャプテンに推薦したんだと思います。事実、男子バスケ部は不祥事もなく、辞める人もなく、比較的平和で和気あいあいとした部活でした。
みんな彼の尽力の賜物で、そんな彼を私は心から尊敬していましたし、大好きでした。