こゝろ





「今日一日だけマネージャーをしてもらうことになった、安養寺優心さん。1年生はいろいろ教えてあげて。」



島原くんの声に円陣の中から「よぉし!」の声と、拍手が起こりました。



そうです。私がバスケ部の一日マネージャーに任命されたのです。事前に訊かされず、バスケ部員と同じタイミングで一日マネージャーになったことを知った私は、嬉しい反面、私なんかにマネージャーという選手を支える役目を全うできるのか不安で、思わず口元に手を当てていました。



「島原くん、私なんかで大丈夫なんでしょうか?」



準備体操をする島原くんに訊くと、島原くんは「大丈夫、大丈夫。」と楽観視しているようでした。その反応がより私を不安にさせました。



「やることって言っても、ウォータークーラーで水汲むくらいだし。それくらいならできるでしょ?」



「できる……と思います。」



「できなきゃ人間辞めた方がいい。」



「人間を辞める。」……思えばこの頃から私の中に、私であって、私ではない何かが産声を上げていたのかもしれません。産声まではいかなくても、卵にはなっていたと思います。




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