こゝろ
「あーあ、このジュースがせめて160円だったらよかったのに。」
何気なしにそう呟いた私の言葉が面白かったのか、撫子はお腹を抱えて笑い出しました。
「ひゃ、160円だったら売れないでしょ……。」
「まあ、確かに……。」
私が真面目な顔で考え込むものですから、いよいよ撫子はおかしくなって、ヒーヒー言いながら笑います。そして、一通り笑い終わった後、撫子は私の手のひらから10円を奪い取りました。
「この10円、募金箱に入れちゃおっか。」
私は内心、もったいないと思ってしまいました。どこの誰かも知らない人のために、お父さんが汗水流して働いて稼いでくれたお金を使うことが何だか悪いような気がしたのです。私がアルバイトをして稼いだお金ならそれでもいいかと思います。それでも、きっとお金に余裕がある時、コンビニで買い物をしたお釣りでもない限りは、募金なんてしないだろうと思います。
「撫子がそれでいいなら……。」
私が了承すると、撫子は席を立って、さっきジュースを買ったたこ焼き屋さんのレジの横にある募金箱にその10円玉を入れました。それからレジの人に何かを言って、その場でスマホをいじりながら突っ立ったまま帰って来ません。やがて、レジの人がたこ焼きを撫子に渡し、それから撫子はお金を払って、戻ってきました。
「なんか美味しそうだったから買っちゃった。優心も食べる?」
パックを開けると、とても美味しそうなたこ焼きが並んでいました。