こゝろ
「いい? これは決定事項だからね? 破ったら……ただじゃおかないから。」
その時の滝さんの目は、吊り上がっていて物凄く怖かったです。今までに一度も見せたことがない狂気に満ちた顔でした。いつもヘラヘラとしている滝さんらしくない、まるで滝さんの中に眠っていたモンスターが起き上がったような、そんな顔でした。
「……わかり……ました。」
私は渋々、滝さんの言うことを聞き入れました。そして、授業の始まりの予鈴が鳴って、滝さんは半分以上残ったメロンパンをビニール袋に入れて、それを持ってトイレに向かいました。
「ねえ、撫子。本当にこんなこと許されるのかな?」
「こんなこと? ああ、佐久間を無視するって話?」
「そう。私、そんなことできないなって……。」
「へえー、でも優心は、佐久間のこと嫌いなんでしょ?」
「まあ、好きじゃないけど……。」
「だったらいいじゃん。世の中、好きな人もいれば嫌いな人もいるっしょ? 嫌いな人から話しかけられて無視することがいじめなら、嫌いな人に話しかけられて無視しちゃいけないって言うのもある意味いじめになるんじゃないって私は思うけど。」
撫子の言うことには一理あります。それでも私は佐久間さんのことを無視することができるとはとても思えませんでした。