こゝろ
撫子の好きな人を……訊き出す?
「そんなこと、私にはできませんよ……。」
「大丈夫。撫子なら優心に心開いてるし、きっと打ち明けてくれるはずだよ。」
「どうして、日野さんが私に心を開いているって思うんですか?」
「見てたら誰だってわかるわよ。」
やっぱり、滝さんの観察眼には敵いません。滝さんの持ち味は何よりも観察眼だと思います。この観察眼によって、いち早く佐久間さんがこの学校で一番力を持っていることを知っていた。それを利用しようと考えた。さすがだなと思いました。
「いい? 訊き出したら私に報告すること。」
「報告して、どうするんですか?」
「決まってんじゃない! 弱みを握るの。」
「弱みって……佐久間さんだけじゃなくて、撫……いや、日野さんの弱みもですか?」
「そう。撫子を手なずければ、あのグループだけじゃなくて、学校全体を私が仕切れるかもしれないでしょ? 撫子は何考えてるかわからないし、付き合いも悪い。そういう人を手なずけるには、弱みを握るしかない。私の考え、間違ってる?」
間違ってはいません。でも、これだと私の立場は、滝さんの権力を確立するために、撫子を利用するという、ある意味スパイのようなものになります。そんなこと、私には荷が重いです。でも、逆らえば、何をされるかわかりません。
「……わかりました。」
「よし、偉いぞ、優心!」
そう言って、滝さんに頭を撫でられました。撫子に頭を撫でられた時とは違って、嬉しくもなく、恥ずかしいとも思いませんでした。
私はこの日、滝さんの本性を知って、怖いと感じました。