こゝろ
自転車の二人乗りなんて、誰に教わって、どこで勉強するものなのでしょうか。
撫子は二人乗りがとても上手でした。止まるところはしっかり止まる。カーブも難なく曲がり、車が来ていないのを確認すると、横断歩道がない道路でも平気で渡っていました。
その上、スピードも速かったです。まるで、乗ったことがない原付バイクに乗っているような風を受けて、前髪がフワッと上がり、おでこが露わになりました。
「ねえ、撫子。撫子の家まであとどれくらい?」
「うーん、このペースだとあと5分くらいかな。」
途中、上り坂に差し掛かりました。それでも、撫子は気にせず私を乗せたまま上ります。自転車のチェーンがギュイギュイと音を立てても、私に降りるように言ってきません。撫子は、私を乗せたままこの急勾配の坂を登り切るつもりです。
「降りようか?」
「え? ああ、大丈夫。これ越えたらあとは下り坂だから。」
下り坂だからと言って、何が大丈夫なのでしょうか? そうこうしているうちに下り坂に差し掛かり、撫子はブレーキをかけずに、両足を広げて下って行きました。
「い~やっほうー!」
先ほどとは比べ物にならない向かい風で、撫子は奇声を上げています。私は怖くて撫子の背中にしっかりとしがみついていました。
「怖い? 優心。」
「ちょ、ちょっと……。」
「大丈夫! 優心は私が守るから!」
下り坂が終わって、撫子はブレーキをかけながら右折しました。それから50メートルくらい行ったところに、白い北欧風の大きな家が見えてきました。
撫子はそこで自転車を止めました。
「ここが私の家。」