こゝろ
「さあ、優心。どうする? 帰る? そして、このことを島原くんに言う? 言って、私には気を付けるように忠告する?」
「そんなこと……。」
とてもできません。
「そうしないと、私……。」撫子は机の引き出しから裁ちバサミを取り出しました。
「ホントに殺しちゃうよ? 島原くんのこと。」
西日に照らされた裁ちバサミの刃が不気味に光りました。ああ、もうダメだ。島原くんは助からない。そう思いました。
そんなわけがないのです。撫子が裁ちバサミを持って、家を出た時、警察に通報すればそれでいいのです。撫子の持っている_____そして、私が今、穴を掘り起こしているのに使っている裁ちバサミは、正当な理由なしに、持ち歩いていると、銃砲刀剣類所持等取締法に違反します。
それは、今となっては冷静に考えられますが、この時はそんなことを考える余裕を生憎、持ち合わせていませんでした。