こゝろ
サボテンのトゲ
翌日、私は普通に学校に行きました。
教室には、撫子もいて、私にいつもと変わらない「おはよう。」を言いました。
でも、これはあくまでもいつもと変わらない風を装っているだけだと思います。そして、この「おはよう。」には、きっとこんな意味が含まれているんだと思います。
「いい? このことを誰かに言ったら、殺しちゃうから。島原くんを。」
結局、寝ただけでは忘れることができませんでした。おそらく、死ぬまで一生忘れることができないんじゃないかと思います。
死ぬまで一生……撫子の言葉が……。改めてマインドコントロールの怖さを思い知らされます。
「お、おはよう……。」
私もなるべく普段通りの「おはよう。」を心掛けましたが、どうしてもぎこちなくなってしまいます。
それを撫子は何も指摘をしてきませんでした。そこが唯一、有難いところではありましたが、その代わりにと言わんばかりに撫子は、私にこう言いました。
「今日のお昼休み、一緒にお弁当食べよ? 私、優心のためにお弁当作ってきたの!」
私は、額に汗が滲みました。撫子の手料理は、美味しかったです。泊まっていた時にもいろいろ振る舞ってくれたのですが、どういうわけかどれも美味しかったのです。
ただ、残すと、手掴みで料理を掴んで、私の口に押し込み、吐いてでも食べさせられるので、残すことだけはできません。
でも、残しさえしなければ、本当に美味しい撫子の手料理なのです。ムチばかりじゃないのです。アメも要所要所で挟んでくるのです。たまに出てくるアメはとても甘く、それが撫子にマインドコントロールされることになった要因の一つとも言えます。
撫子は本当に人の心を掴むのが、支配するのが上手かったのです。それは、練習や経験では積めないもので、天性のものとしか言いようがありません。努力ではどうにもならない才能。神様からの贈り物。そういうものなのです。