こゝろ
撫子の中で、私がトイレに行ってることになっている時間のことをお話します。
同じクラスなのに生まれた10分間の空白の時間、私は滝さんに呼ばれて中庭にいました。
中庭での滝さんの第一声は私の心臓を脅かすものでした。
「撫子には気を付けた方がいいよ。」
この一言で、滝さんが私と撫子の間に何があったか、その片鱗は知っているんだろうということを感じました。
「どういうことですか?」
「撫子には気を付けた方がいいってこと。」
滝さんは同じ言葉を繰り返しただけでした。繰り返すだけならわかります。でも、どうしてその言葉を繰り返すだけで、その言葉の理由を教えてくれないのか、そこがわかりませんでした。
私は訊き方を変えました。
「どう気を付けた方がいいんですか?」
「あんまり関わらない方がいいってことかな。関わりすぎると、ボロボロにされちゃうか、最悪の場合、死ぬかもね。」