彼と私の優先順位
傘を取って戻ると。

慧が壁に体を預けて立っていた。

その何気ない様子すら、一枚の絵みたいにきまっていて。

通りすぎる女子生徒達がチラチラと慧に視線を投げかける。

もしくは慧にバイバイ、と声をかけたり。



私は傘の柄をギュッと握りしめて、慧に声をかけた。

「ごめん、慧。
ありがと……」



言うか言わないかのうちに。

フワッと慧の愛用している、柑橘系を連想させる香水の香りが私の周囲に漂う。

「カーディガン、忘れたなら言えよ」

眉をひそめて、慧が私にさっきまで着ていたカーディガンを羽織らせた。

長い骨ばった指がボタンをとめてくれる。

慧の紺色の制定カーディガンは、慧より身長が二十センチ以上低い私には大きい。

そんな私の様子を見て、苦笑しながら袖を捲り上げてくれる慧。

さっきとはうってかわって、いつも通りの慧だ。



「丈はどうしようもないな」

紺色の細いプリーツの膝丈スカートがほぼ隠れてしまう状態を見て、慧がまた苦笑する。

夏服は白いブラウスに群青色のネクタイ、といった制服。

体温調整は制定ブレザーか、制定カーディガンになる。



「……慧は寒くないの?」

慧の香りに包まれていることがくすぐったくて、ぶっきらぼうな口調で話してしまう。

「置きブレザーあるし、帰るだけだし」

「……何で私が寒そうってわかったの?」

「さっき鞄受け取った時、結奈の手が冷たかったから」

「……いつもだよ」

「いつもは指先が主に、だろ」



帰ろう、と私を笑いながら促す慧。

そう、こんな風に。

慧は悲しくなるくらいに私のことをお見通しで。

憎らしいくらいに然り気無く、その優しさを披露してくれるから。

……私はいつも悲しい勘違いをしそうになってしまう。


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