彼と私の優先順位
「あ、結奈っ」

「遅かったじゃない、心配した……って、えっ?!」



座敷に戻る手前でこちらに向かってくる巴ちゃんと千恵ちゃんに遭遇して。

二人とも私と慧を見て、驚いた表情を浮かべる。




「スミマセン、不動産部の館本です。
結奈、気分が悪いみたいなので、送っていきます。
申し訳ないのですが、彼女の荷物をいただけますか?」

「慧、私、自分で……」

話そうとする私に一瞬だけ睨み付けるような視線を送る慧。

黙ってろ、と言いたげに。



それなのに。

その迫力ある一睨みは幻かと思うくらい速く、表情を切り替えて。

見惚れてしまいそうな極上の笑みを浮かべて、慧が千恵ちゃんを見つめる。

千恵ちゃんは軽く頬を染めて、すぐ持ってきます、と座敷に戻っていった。



「俺も荷物を取ってくるから、入口で待っていて」

私に囁いて、巴ちゃんに軽く会釈をして去っていく慧。

慧の姿が見えなくなった途端。



「ちょっと!
結奈ちゃんっ、どういうことっ」

巴ちゃんに詰め寄られて。

私はさっきまでの出来事を簡単に話す。



「……柘植、それはダメよ……王子様には敵わないわ……っていうか、そんな風に恐がらせてどうするのよ、全く!
本当に女心をわかっていないんだからっ!
結奈ちゃん、本当に大丈夫?
ビックリしたんじゃない?
……館本さん来てくれて良かったわ」

心配してくれる巴ちゃんに私は気になっていることを話す。

「……巴ちゃん、柘植くんのことだけど……」
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