彼と私の優先順位
転勤早々、部署も違う私を送ると聞かされても不思議がる様子もなく心配そうな表情を浮かべる溝口さん。

そのことに少しの違和感を覚えながらも。



「あっ……うん、大丈夫です……」

何とか返事をする私。

溝口さんは綺麗にカールされた睫毛で何度か瞬きをして。

「そうですか?
だったらいいんですけれど……本当に大丈夫ですか?
あっ、館本さん。
皆さんには私から伝えておきますね、また連絡します」

完璧な笑顔で慧を見つめる。



「……ああ、悪いな」

慧は短く返事をした。

それから私に向き直って。

「ほら、結奈」

私の手を握り、見送ってくれている女性達に会釈をして店を出た。



店を出た途端、湿った熱気に身体が包まれる。

店に入った時は明るかった空は、今は真っ暗で細い月が輝いている。

家路に急ぐ人やほろ酔い加減の人がちらほらと通りを歩いている。



「……ちょっと歩ける?
この辺りタクシーが拾いにくいから……」

心配そうに見つめる慧に私は笑って、口を開く。

「慧、大丈夫だよ。
私、別に怪我をしているわけでもないし……」



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