彼と私の優先順位
私の言葉に。

慧はピタリと長い足を止めた。



「……慧?」

怪訝に思った途端。

フワリと身体が慧の胸に包まれた。

私の背中にまわる慧の優しい長い腕。

慧の香りが私を無条件に安心させる。

「……恐かっただろ
……ビックリしただろうし」

私の肩に半ば顔を埋めるように話す慧の心配そうな柔らかい声が私の鼓膜を震わせる。



「……っ」

ああ、もう。

どうして、この人は。

私が言葉にしない気持ちに敏感なんだろう。

どれだけ私を知ってくれているのだろう。



私が隠し続けてきた気持ちさえも、きっと慧は気付いている。

私が対峙している戸惑いや恐れ。

きっと慧はわかっている。

そのうえで、私の判断を尊重しようとしてくれている。



……あの頃そうだったように。

大丈夫だよ。

私、そんなに弱くないよ。

そう言いたかったのに。



私の髪を優しく撫でる慧の手が温かくて。

私の瞳を覗きこむ慧の瞳が優しすぎて。

まるで自分がとても弱い存在になったような気がして。

小さく頷くしかできずにいた。



「すぐ、見つけてやれなくてごめん、な」

慧は何にも悪くないのに。

助けてくれたのに。

まるで自分が何か悪いことをしたかのように。

私の頬を長い指でそっと撫でるから。

その全てに甘えてしまいそうになる。





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