彼と私の優先順位
「……大丈夫、だよ?」



理性を総動員して紡いだ言葉に。

慧はフッと妖艶に微笑んで。

「……そう言うと思った」

ソッと私の額に口付ける。



その瞬間。

慧が口付けた箇所が一気に熱を帯びる。

恥ずかしさで私は視線を慧のネクタイを見つめる。



「結奈は自覚がないけど、色々とモテてるから。
……手を出されないかいつも心配なんだ」

私の頭上から盛大な溜め息が降ってきて。

慧はまた私の身体を抱きしめる腕に優しく力を込める。



「……慧ほどモテてないから」

下を向いて、拗ねたように言い返す私に。

「俺は結奈だけにモテればいいんだよ」



答えになっていない答えで私を困らせる。

クスッと優しく笑って、慧は再び私の手を取る。

指をゆるく絡ませて、慧は大きな通りでタクシーを拾ってくれた。

運転手さんに私の自宅近くの住所を告げて。

慧は指を絡ませたまま、私の肩を自身の胸にもたれさせた。

静かな車内に私の速い鼓動が響く。



「……あの、慧。
助けてくれて……心配してくれて、ありがとう」

大事な言葉を伝えていないことを思い出して、慧を見上げて話す私に。

慧は何も言わず、ただ蕩けそうに優しい瞳で私を見つめた。










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