彼と私の優先順位
強気な口調とは裏腹に。

薄茶色の綺麗な瞳に泣きたくなるくらいの優しさを浮かべて、慧が微笑む。



「プロポーズはきちんとするから。
……今は俺の気持ちだけ聞いてて」

慧の言葉に胸が詰まる。

ただただ、嬉しくて。

嬉しすぎて胸が痛い。

好きな気持ちがパンパンに膨らみすぎると。

こんなにも胸が痛くなるなんて知らなかった。



私は何も。

好き、さえも告げれていないのに。

過去を思い出しては足踏みして。

前を見ることもできないのに。

不安だらけなのに。

どうして慧は。

そんなに余裕があるの?



「慧……私、私ね」

込み上げる気持ちに背中を押されて。

想いを伝えようとした時。


「ストップ」



慧が私の唇に長い人差し指を押し当てる。



「……今、返事がほしい訳じゃない。
ただ……知っててほしいだけ、俺の本心。
いつか……結奈が俺と同じ気持ちになってくれた時、返事して」



ニコリと穏やかに微笑む慧は、本当に魅力的で。

どうしてこんな人が私をこれほど想ってくれるのかと不思議に思う。



以前の罪滅ぼし?

慧なりの後悔?

嫌な推測ばかりが頭をよぎる。



同時に。

自信がない私は。

いつまでも過去を精算できず。

こんなに気持ちを伝えてくれる慧にどっち付かずの態度しかとれないというのに。

……自分が酷く嫌な人間に思える。



「もう少しで書き終わるから」

唇から指を離して、慧は再び伝票に向き直る。

離れた指の温かな感触が今になって、私をひどく寂しい気持ちにさせた。
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