彼と私の優先順位
本心
慧と同じ勤務先であるにもかかわらず、顔を合わせることなく、何日も過ぎたある日。



慧から連絡があり、金曜日の就業後に会うことになった。

二人きりで会うのはインテリアショップに出掛けた日からほぼ三週間ぶりだった。



仕事が終わるまで時間がかかると言われ、自宅近くのカフェで待つことにした。



八月も下旬になり、夏が少しずつ終わりに差し掛かっている。

まだまだ暑さは残っているけれど、季節は確実に移ろっている。




早々と秋色の服を身に纏っている女性や足早に歩く道行く人をお店の窓からボンヤリと眺めていると、こちらに向かって走ってくる慧の姿が見えた。

少し眉間にシワを寄せ、焦った顔をしている慧を目にすることが珍しく、ついじっと見つめてしまっていた。

遠目からでも慧の際立った容姿は目立っていた。

そんな人が私を好きでいてくれることがやはり夢のように思えてしまう。



慧がお店に入ってきた瞬間。

その華やかな容姿に、周囲の人々の視線が集中する。

そんな視線を歯牙にもかけず、慧は辺りを見回し、私を見つけた。

瞬間、ふわっと嬉しそうに破顔する。

その笑顔に私の胸がトクントクンと高鳴った。



「ごめん、遅くなって」

「ううん、私もさっき着いたところだから。
慧、仕事忙しいみたいだけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。
なかなか会えなくて本当にごめんな。
結奈、腹減ってない?
何か食べに行こっか?」



私の向かいの席に腰をおろし、自然に話す慧に。

私は小さく首を振る。



「慧、先に聞きたいことがあるの」

「ん?」

注文を取りに来てくれた店員さんに、素早くアイスコーヒーを注文して、慧は私に向き直った。

< 148 / 207 >

この作品をシェア

pagetop