彼と私の優先順位
溝口さんの気持ちを慮って、慧を諦めることは……もうできない。

だけど、溝口さんが私に抱く嫌悪感は理解できる。

……同じ女性として。



慧が言っていることも理解できる。

だけど……それを何故全部伝えてくれなかったのだろう。




「……慧が私のためにしてくれたことはよくわかっているよ……慧の優しさも気持ちもわかっているつもり。
だけど……溝口さんはずっと……ずっと慧を見てきたんだよ?
私達が初めて付き合うきっかけになった人だったんだよ……なのに関係ない、なんてそんなことある?」

「じゃあ……どうしたらよかった?
結奈は俺にどうしてほしいわけ?」



相変わらず、不機嫌な様子の慧。

薄茶色の瞳を細めて、じっと私を見据える。



……こんな表情の慧を見ることが苦手だった。

喧嘩をしたくなくて。

嫌われたくなくて。



私をわかってほしいと思っていた。

慧ならわかってくれると。

気付いてほしいと。



だけど、今。

時間が経って。

少しだけわかったことがある。

言わなくて理解してもらう、それはとても難しいことだと。

あの時はそれがわからなかった。


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