彼と私の優先順位
「……そのままだけど。
結奈、そんな風に感情的に言い返したりしなかっただろ?
もっと俺がすることに冷静だったし、受け入れてくれてた」

「……慧。
私がどんな思いでそうしてたか……知ってる……?」



ポツリと言葉が一滴の雫のように零れて。

波紋が広がるように。

私の言葉は止まらなくなった。



「……あの日観覧車の中で、私言ったよね?
慧に、自分の気持ちが言えなかったって。
喧嘩したくなかったし、慧に嫌われたくなかったって。
だから我慢してる自分がいて。
だけど慧が好きな分、それがどんどん辛くなったって」

「……わかってる」



明らかに不機嫌そうな表情の慧に。

私の気持ちがどんどん萎んでいく。

感情が悲しいくらいに冷えていく。



「……もう、いいよ」

呟いた言葉に慧が反応する。

「もういいって、何が?」



「……慧は結局、反論せずに自分の意見を言わない私が好きなんだよ……。
慧はやっぱり、あの頃から変わってないんだよ……」

「結奈、何言って……」

「もう、いいよ。
もう無理だよ、ごめん」



これ以上話すと涙が零れ落ちそうで。

でも慧の前でそれだけはしたくなくて。



鞄を探って代金を置いて。

私は立ち上がった。

そのままお店を飛び出した。



「ちょっ……結奈!」


< 156 / 207 >

この作品をシェア

pagetop