彼と私の優先順位
慧の焦った声が背中から追いかけてきたけれど。

私は振り返らなかった。




どこかで期待していた。

慧はあの頃から変わったんだと。

今度こそ、私の気持ちをあの頃よりは考えてくれると。




私が慧のすることに、意見を言ったとしても喧嘩することなく理解しようと話し合ってくれて。

受け入れてくれると。



でも。

そうではなかった。



慧は自分の考えにとやかく言われるのが嫌いで。

私の考えに聞く耳をもってはくれない。


……あの頃と同じ。


慧に何年経っても『好き』すら伝えられない私が言うのは間違いかもしれない。

私の気持ちを考えて、と言いながら本心を隠し通してきた私に。

……言う資格はない。

よくわかっている。



だけど、それでも。

期待したかった、願いたかった。

今度こそ、ずっと一緒にいられると、



息が切れるくらいに走り続けて。

マンションの玄関ドアの鍵を震える手で開けた。



スマートフォンが何度も鳴り響いていたけれど、気づかない振りをした。

玄関に入ってノロノロ座り込んだ私は。

情けないほど泣き続けた。

< 157 / 207 >

この作品をシェア

pagetop