彼と私の優先順位
「……結奈、慧に好きって、伝えた?」

亜衣の静かな言葉が胸に響く。



私は『好き』さえ慧に伝えていない。

慧はあんなに私に気持ちを伝えてくれたのに。

相手の気持ちが見えないことがどれだけ孤独か知っていた筈なのに。



「結奈と慧は……お互いに臆病なんだと思う。
お互いがお互いをすごく好きなことはわかるの。
だけど肝心な部分で、お互いに気を遣い過ぎちゃって本心を話さないの。
変なところは意固地なのに。
……ねぇ、結奈。
付き合うって素敵なことだけど。
忍耐強くなければ、相手を受け入れようって気持ちがなければいけないことだってあるんだよ。
相手の嫌なところだって見ることになる。
だけど一緒にいられるために皆、努力してるの」

「……私、慧に嫌われたくなくて……」

「嫌われる、とか嫌われたくない、とかじゃなくて。
一緒にいるために、お互いをより理解するために話し合うこと、本心をさらけ出すことは大事なことよ。
傷つけ合うだけの喧嘩は必要ないかもしれないけれど、お互いを理解するための喧嘩は必要だって私は思っている。
私と奏なんて、しょっちゅう喧嘩してるでしょ?」



そう言われてみたらそうだ。

高校生の頃から、傍で見ている私がハラハラするくらいに真剣に亜衣と奏くんは喧嘩をしていた。



「私の喧嘩の仕方や奏との付き合い方が正しいとは言わない。
だけど、私達は意見や想いをぶつけ合って今まで過ごしてきたよ。
一緒に暮らすようになってからは、更に喧嘩したり、意見をぶつけ合ったりしている。
だけど、それで奏に嫌われると思ったことはないし、奏もそれが原因で私と別れることになるとは思っていないと思う」

「……何で?」

「その程度で別れるくらいの『好き』じゃないってお互いにわかっているから。
奏を信じているから」
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