彼と私の優先順位
午後八時前。

日はすっかり落ちてしまっているけれど。

部屋の一歩外に出るとムワッとした空気に包まれる。

街灯が明るく道を照らしていた。

人通りが多く、賑やかな道を亜衣と歩く。



「慧の家ってこっちよね?
一緒にそこまで行こうか?」

曲がり角で、何処までもしっかりしている亜衣が心配そうに私を見つめる。

「ううん、大丈夫。
道も明るいし。
それより、私の方こそ駅まで送ろうか?
奏くんは?」

「もう、結奈。
人の心配をしている場合?
駅、そこに見えてるし大丈夫よ。
ちなみに奏は残業。
私のことはいいから、早く行きなよ」



呆れたような亜衣に私は少しだけホッとして。

「うん、わかった。
……ありがと、亜衣」

「はいはい、ちゃんと伝えるのよ?
何かあったらすぐに連絡して。
何かなくても!」

いつも通りの亜衣に笑いながら私は手を振って。

慧のマンションに向かって走り出した。



走る必要はないのだけれど。

何だか気が急いて。

走らなければいけないような気になった。

汗が額に湧き上がるけれど。

そんなことを気にせず。

私は慧のマンションに向かって走り続けた。

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