彼と私の優先順位
慧のマンションの場所は知っていたけれど。

訪ねるのは初めてで。

一歩近付く度に緊張が増す。



ドキンドキン、と。

壊れそうなくらいにうるさく響く心臓の音。



マンションに着いて。

コンクリートの打ちっぱなしになっているオシャレな外観を見上げる。

勢いで来てしまったけれど、オートロックのマンションだし、勝手にエントランスには入れない。



手にしていた小さめのトートバッグから、スマートフォンを取りだしたその時。

マンションの入り口が開いて。

一組の男女が出てきた。

マンションの真正面に立っていることが気まずくて、咄嗟に柱の陰に隠れる。




「……え」

思わず声が漏れた。

出てきた男女を凝視する。



私の方に背中を向けて歩いているけれど。

二人の姿には、悲しいくらいに見覚えがあった。



慧と溝口さん、だった。



……どうして、二人が?

ここ、慧のマンションだよね?



ドクンドクン、とさっきとは違う種類の鼓動がうるさいくらいに響く。

手が震えて冷たくなる。

目の前が真っ暗になったかのように身体がグラグラ傾いだ。

……胸がとても痛くて。

二人の姿をこれ以上直視できなかった。



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