彼と私の優先順位
私があたった検査は日中検査なので、時間に余裕があった。

融資係の美崎さんのところへ向かう。



「美崎さん、おはようございます。
検査なのですが……」

「あ、おはよう。
そっか、ローンの契約書だよね。
結構な数があるから、営業時間後でもいい?
それまでに準備をしておくわ。
手が空いたら内線電話で連絡もらえる?」

キビキビした口調で美崎さんが指示をくれる。

美崎さんは私より三つ先輩だ。

耳までの綺麗な内巻きの髪がトレードマークで、明るくて、頼りがいのある女性だ。



「わかりました。
後でお電話します」

私は軽く会釈をして自席に戻った。

それからはいつも通りの業務をこなした。

午後の営業時間が終了し、私の仕事も一息ついた時。

まるで見ていたかのようなタイミングで内線電話が鳴った。



「はい、紬木です」

「お疲れ様、美崎です。
ちょうど今、手が少し空いたの。
残高検査、今から準備しようと思うのだけど、どうかな?」

「大丈夫です」

「良かった。
じゃあ、今から地下の金庫室に来てくれる?」

「わかりました」

私は受話器を戻し、ちょうど帰社していた笠井さんに残高検査に向かう旨を告げて金庫室に向かった。


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