彼と私の優先順位
俯く私の顔に長い髪がかかる。

……髪を伸ばしていて良かった。

少なくとも遠くからは、学校の昼休みに、こんな場所で情けなく泣いていることは他の人にばれないだろうから。



「結奈!」

急に名前を呼ばれた。

こっちに向かって全速力で走ってくる慧が目に映る。



立ち上がって、逃げようとすると。

あっという間に距離を縮めた慧にきつく抱き締められた。

慧の速い鼓動と汗の匂いが私を包む。



「は、離して!」

細身に見えてもやっぱり慧は男性で。

力強い腕は私を胸に捕らえたまま離さない。

腕の中でもがく私を慧は益々強く抱き締める。



「ごめん、結奈……」

さっきとはうってかわって、苦しそうな声を出す。

その声に私の動きが止まる。

「……結奈が怒るの当たり前だよな……本当にごめん。
あんな言い方して傷つけたよな……。
でも亜衣に言われてとか、成り行きとか、そういうんじゃないんだ。
俺、結奈に拒絶されるのが恐くて、軽い言い方しかいつもできなくて……。
本気で……結奈が大事なんだ。
……好きなんだ……誰にも渡したくないんだ……」



絞り出すような切ない慧の声。

こんな慧の声を聞くのは初めてで。

速まる鼓動が、伝わってくる。

きっと、慧にも私の狂ったような速い鼓動が聞こえている。

汗ばんだ慧のシャツから伝わる慧の体温はとても高い。

話したいのに、伝えたいことも、文句を言いたいこともたくさんあるのに。

私の口からは言葉が出なくて。

ただ涙だけが溢れた。

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