彼と私の優先順位
地下の金庫室の空気は、地上にある営業フロアよりもヒンヤリとしている。

営業フロアの喧騒が嘘のような静かさだ。



照明も営業フロアよりは暗めなので、まるで別世界に迷い込んだようで入社当時は金庫室が苦手だった。

今では随分慣れてあまりそうは思わなくなったけれど……。



金庫室に入るため、幾つかのロックを解除して重い扉を開けると。

美崎さんが既に待っていてくれた。



「お疲れ様、忙しい時間帯にごめんね。
これなの。
私も一緒に数えるわ」

申し訳なさそうな顔をする美崎さん。



金庫室に設置してある簡易テーブルにずらっと並べられた契約書ファイル。

分厚いファイルが何十冊と積まれている光景は圧巻でもある。

私もファイルを眺めながら苦笑した。



「毎回時間がかかっちゃうから……ごめんね、本当に。
さあ、数えましょうか」

「はい。
すみません、美崎さん、お忙しいのに手伝っていただいて……」

「ううん。
元々融資の保管物だし。
自店保管を減らせたらいいんだけどねぇ……」

溜め息を吐きながらサクサク手を動かす美崎さん。



二人で黙々と作業をしていた時。

金庫室の内線電話が鳴った。
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