彼と私の優先順位
「はい、美崎です……えっ?
ああ、そうなの……うん、今、残高検査。
わかった、今から戻るわ」

通話を終えた美崎さんが申し訳なさそうに、私に向き直る。

「ごめんね。
急ぎの電話が入ったみたいなの。
終わり次第戻るから、続きをお願いしていい?」

「勿論、大丈夫です。
こちらのことは気にしないでください」

「ごめんね、すぐに戻るから」

そう言って美崎さんはバタバタと営業フロアに戻っていった。



それから暫く。

静寂の中で私は黙々と作業に没頭していた。

ページを繰る音だけが辺りに響く。

今の私にはこういう一人の状況のほうが助かる。

頭の中に余裕ができてしまうと、慧のことを考えてしまうから。

溝口さんのこと。

今朝送ったメールのこと。

昼休みに恐々メールを確認してみたけれど、慧から返事は来ていなかった。



その時。

ガチャリ、とドアが開く音がした。

美崎さんが戻って来てくださったのか、と反射的にドアを見つめる。



入ってきたのは、溝口さんだった。

瞬時に私の顔が強張る。

ドクン、と私の胸が嫌な音をたてた。

私に気付いた溝口さんは怪訝そうな表情をした。


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