彼と私の優先順位
慧はもがくことをやめた私をそっと体から離して涙を長い指で拭った。

ブワッと顔が赤く染まって、涙が止まる。

「……ごめん、泣かせた」

真っ赤な顔のまま、慧を見つめる私との距離を、慧は再び詰めて。

私の唇に慧の唇が優しく羽のように触れた。



その瞬間。

私の頭は真っ白になって。

力が抜けて。

何も考えられなくなった。



慧の唇は温かくて。

見たことがないくらいに近い距離に、慧の伏せられた長い睫毛があって。

慧の柔らかい髪が私の顔に微かに触れる。

その感覚が私に現実味を抱かせる。

名残惜しそうにゆっくりと唇が離れて。



慧は私の瞳を覗きこむ。

いつも飄々としている綺麗な薄茶色の瞳が不安で揺れていた。

私は思わず慧の胸に手をおく。



「……何で……」

キス、したの、と私が口にする前に。

「好きだから、ごめん、キスしたかった」

慧が後を続けた。



涙はすっかり止まって、再び顔が熱を帯びる。

私の腰に片手をまわしたまま、慧が私の頬に触れる。

俯くのを防ぐように。

慧から目を逸らせなくするように。

「……ずっと、好きだった。
ちゃんと言おうって思ってたんだけど……結奈ならわかってくれるって甘えてたのもあってさ……」





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