彼と私の優先順位
慧の言葉が私の胸に染み込んで。

私を見つめる慧の瞳が、滲んだ涙で歪んで見える。



「ずるいよ……」

「ごめん……」

「私、慧がずっと好きだったんだよ……?
急に帰れないって理由もわからずに言われて……ショックだったのに……期間限定の彼女ができたって言われて、それで好きだって言われても……訳がわからないよ……」

込み上げてくる思いのままに、気持ちを慧にぶつける。

慧は表情を強張らせて、黙ったまま、頬を伝う私の涙を長い指で拭った。



「……ごめん。
もう、こんなことしないから。
何でもちゃんと結奈には話すから……大事なことはふざけて伝えたりしない。
だから……。
お願いだから俺の彼女になって」

突然の懇願に言葉が出ない。

「大事なんだ。
本気で好きなんだ。
結奈を誰にも渡したくない」



いつもみたいに、曖昧にはぐらかさずに。

真っ直ぐに私を見つめる慧の視線は力強くて。

放たれた言葉は懇願するかのように真剣で。

呼吸が止まりそうになる。



他にも文句を言いたかった筈なのに。

泣き言を伝えたかった筈なのに。

私はそれ以上何も言えなくなって、小さく頷いた。



その瞬間。

慧は泣き笑いみたいにホッとした表情を浮かべて。

「……本当に?
本当に……?
良かった……」

ギュッと私を胸に閉じ込めた。

「良かった……」

そう言って慧は私の髪に唇を付けて、優しく撫でる。

今更ながら恥ずかしくて私は慧の胸に顔をうずめた。

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