彼と私の優先順位
「飯田くんも勉強頑張ってね!」

「うん、ありがとう」

教室の戸口にいる飯田くんに、努めて明るく声をかけて、私は教室を出た。

慧を見ずに。

亜衣はコンタクトを買いに行くから、と授業が終わるとすぐに帰路に着いていた。



夕方に近いこの時間でも、まだ空は明るく、暑さも厳しかった。

校庭の樹には蝉の声が元気に響き渡っている。

外気との温度差は大きく、一歩外に出るとムワッとした空気が私を包む。



今月に入って三回目のドタキャン。

数えている私もしつこい性格だと思うけれど。

先月は五回だった。



私はバス停までの道を一人歩きながらボンヤリと思う。

慧と付き合って一年以上経って。

ずっと慧を見てきたし、友達の距離では知らなかった慧を知った。

クリスマス、初詣、バレンタイン……色々なイベントも二人で、時には奏くんや亜衣と一緒に楽しく過ごしてきた。



慧はいつだって優しくて。

イベントも、できる限り私の希望を叶えてくれて。

……慧のことは変わらず、ううん、以前よりも大好きだ。

慧の大きな手の温もりも。

私を抱きしめてくれる広い胸も、少し低い声も。

嘘のつけない瞳も。

数え上げたらキリがないくらい。



だけど。

好き、だからなのか。

好きすぎだから、なのか。

私は何処か、慧に近付けていない気がする。

慧の心の中が、本心がわからないことがある。

慧が私を遠ざけている、とかではなく。




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