彼と私の優先順位
そう、その時点で。

慧が大切にしているものと対立してしまった私は、もう無理なんだって思った。

このままじゃ、大好きな慧を私はいつか嫌いになってしまいそうで。

それが何よりも恐かった。



私とどっちが大切なの、と慧に迫りたいわけじゃなかった。

好きな人をきちんと受け入れることができていないんだと思った。

一緒にいても、今日は何時までいられるのかなと無意識に時限を気にしながら会うこと。

これは絶対に話さなくてはいけないから、今日会ったら、一番に話しておかなければ、と考えながら会うこと。

そんな状態が悲しかった。




私がいないほうが、私との約束がないほうが、慧は遠慮なく自分の好きなことをできるのかな、と思い始めた。

慧は私といることと自分の大好きなことをしている時、どっちが幸せなのだろうと。



好き、が、付き合うことの意味がわからなくなってしまった。

二人でいても、何処かひとりよがりで、私達は同じものを見ていると思えなくなってしまった。



「……ごめん、慧。
私、もう無理……」

言葉を紡ぐ度に涙が溢れそうになる。

泣いちゃいけない、そう言い聞かせて、目をしばたいて、涙を必死で押し止める。

「……意味、わかんねえよ……。
何でその時に言わないの?
何でそんな結論、一人で出してしまう前に話さないんだよ……」

頭を抱え込むように下を向く慧。

「……喧嘩、したくなかったんだよ……慧、私がそういうことに口出しすること、嫌だったでしょ?」

「……そんなの言わなきゃわかんねえじゃん……」
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