彼と私の優先順位
「……そうだね……」

悲しい思いで私は大好きな人を見つめる。

私達の間には修復できない溝がある。



「なあ、本気?
本当にもう、別れる気?」

じっと深い悲しみをたたえた綺麗な瞳に射抜かれて。

冗談だよ、そんなこと思っていないよ、と言ってしまいたい衝動に駆られる。



大好きで。

胸が痛くなるくらいに大好きで。

私さえ我慢すれば上手くいくんじゃないかと、今まで何度も思ってきたことを考えてしまいそうになる。



だけど。

グッと歯を噛みしめて。

私は頷く。

「……マジで……」

慧は座席に背中を預けて下を向く。

墨で塗りつぶしたような闇が広がった空。

宝石箱みたいに見える眼下のキラキラのイルミネーションは、今の私達には本当に不似合いで。



「……俺がそこまで結奈を追い詰めたんだよな……」

ポツリと話す慧の言葉に、私は何も言えなくなる。

「……ごめん。
結奈がそこまで辛かったなんて、正直、俺思ってなかったわ……。
結奈を俺なりに一番に大事にしてたつもりだった……」

自分の手のひらをじっと見つめる慧。

「……大事にしてもらってたよ……」

それだけ言うことが精一杯で。

慧は悲しそうに、力なく笑った。

「……いや、それだったらこんな結末になってないだろ……」


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