彼と私の優先順位
その姿が何故かとても弱々しくて。

寂しそうで。

いつも飄々としていて楽しそうで自信満々な慧とは思えなくて。

自分の放った言葉が慧を傷つけたことが辛かった。



「……ごめんね」

「何で結奈が謝るの」

いつものようにスッと私の頭の上に手を乗せようとして、慧がグッと手を引っ込める。

「……わかった、結奈。
……別れよう。
今の俺じゃ……結奈を幸せにできないだろ……」



私の瞳を真っ直ぐ見つめて言う慧に。

自分が言い出したことなのに。

私の胸が今までにないくらいに痛くなる。

どこかから出血しているかのよう。

ドクン、ドクン、ドクン、と心臓の音がうるさいくらいに耳に響いて。

呼吸が苦しくなる。



「……う……ん」

絞り出した声はかすれていて。

そんな私の腕をグイッと慧が引っ張った。

引っ張る腕の力とは裏腹に、ポスン、と優しく受けとめてくれた慧の胸は温かくて。

いつもの慧の香りがした。



その香りに包まれて、泣いちゃダメなのに。

自分から別れを切り出して泣くのはズルいし、泣かないって言い聞かせてきたのに。

我慢できなくなった私の涙が溢れ出す。



抱きしめてくれる慧の腕が温もりが本当に好きで、好きだった。

明日からはもう、ここは私の場所ではない。

慧が抱きしめる人は私じゃない。
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