彼と私の優先順位
「……今日お客様、多いね」

窓口の向こうに広がる待合い席に目を向ける。

「そうだねぇ、昨日までずっと雨だったからじゃない?
今日は気温も高めだし、外出日和なのかも」

パソコンから少し顔をあげて、千恵ちゃんが返事をする。



二日程前に梅雨が明けた七月半ば。

暑さは日ごとに増している。

昨日までの雨が嘘のように、今日はカラリと晴れて、気温もグングン上昇している。



「千恵ちゃん、伝票のここ、記入の仕方わからないんだけど……通番、何番にしたらいい?
何を見たらわかる?」

綺麗な薄桃色のネイルを施した手で千恵ちゃんが伝票を手に、立ち上がった。



「耐火金庫のファイルで確認できるよ。
一緒に来て」

千恵ちゃんは営業フロアから見えにくい場所にある耐火金庫を開けて、一冊のファイルを見せてくれた。

「はい、この番号ね。
またわからなくなったら、これを参考にして。
……結奈、ご飯食べに行かない?」

ファイルを見てるフリをしながら千恵ちゃんが小さな声で私に話す。

「それって……」

「そう、三橋に頼まれたコンパ」

「……行かない」

「だろうと思った」
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