彼と私の優先順位
全く残念に思っていない様子で千恵ちゃんがカラッと笑う。

「結奈は本当、コンパや飲み会、参加しないよねぇ……可愛いのにずっと彼氏がいないなんて信じられない。
勿体ないわあ。
同期会すら、なかなか来ないもんね。
幹事の柘植くんにこの間、優奈を連れてきてくれって懇願されたよ」

ちなみに千恵ちゃんには付き合って一年になる彼氏がいる。

「……だって」

「はいはい、どうせ高校の時の彼氏が忘れられないんでしょ?
でも……別れてもう五年以上経ってるんでしょ?
そろそろ違う人に目を向けてみてもいいんじゃない?
……付き合わなくたって、ご飯を食べに行くだけ、とかでも」

少しだけ心配そうな表情で千恵ちゃんが私を見る。



入社してすぐ、意気投合した千恵ちゃんにはこれまでに色々なことを話してきた。

好きな食べ物、好きなお店……。



けれど。



慧のことは話さずにいた。

思い出にはまだなりきれなくて。

時間が過ぎれば過ぎるほど、思い出してしまう。

思い出は美化されるというけれど。

美化されるどころか、私の心に降り積もる。




その声も仕草も。

思い出す度、胸が痛い。

楽になりたくて、辛さから離れたくて選んだことなのに。

今度は違う痛みに捕らえられている。

けれど勝手に別れを選択した私が今更。

彼に何を話せばいい?




私に彼氏がいないことを真剣に心配して、色々な人を紹介しようとしてくれた千恵ちゃんに申し訳なくて、慧のことを話した。



「……そうだね」

曖昧に微笑む私に、千恵ちゃんは肩をすくめる。
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