彼と私の優先順位
「……何て顔してんの」

フッと慧が目尻を下げる。

「なっ、何が!」

慧の言葉にハッとする。




「……絶対お似合いだと思うのに。
ねぇ、結奈、本当に付き合わないの?」

諦めきれないのか、亜衣がたたみかける。

「つ、付き合わないよ!」

「うわ、ハッキリ言うなぁ。
傷つく……」



傷つく、なんて口にしながら。

私の顔を覗き込む慧。

サラッと流れた慧の前髪から優しい薄茶色の瞳が見えて。



私の心臓がドクンッと一つ、大きな音をたてる。

聞かれていないか心配になる程に。

自身のことを言われているとは思えない余裕綽々の慧。

……まるで本心とは思えない、そのサラリとした言い方。



慧は基本的に、誰に対しても優しい。

特に女の子に対しては、傷つける言い方はしない。

その容姿は勿論、性格も相まって、入学してから慧は女子生徒達から絶大な人気を集めている。

上級生の女子生徒からの注目も圧倒的で。

慧は自分から積極的に女子生徒と話すことはしていないけれど、話しかけられた時は、気さくに話している。

……よく言えば公平で、分け隔てがない。

慧よりも落ち着いた雰囲気で、鋭い眼差しとは裏腹に物腰の柔らかい奏くんも人気者だけれど、フリーの慧の人気とは比にならない。

そう、慧には彼女がいない。

告白は何度もされているようだけれど、全部断っているらしい。



「……もう。
慧、手!
……放してよ」

絡められたままの指をほどこうとする私に。

「何で?
奏も亜衣と繋いでるんだし、いいじゃん」

「奏くんと亜衣は付き合っているの!」

「じゃ、俺と結奈も付き合えばいいじゃん」

「そういう問題じゃないの!」

「本気なのに。
酷いな、結奈」



私を試しているとしか思えない台詞を吐く慧に、私は小さく溜め息を吐く。

「まあまあ、いいじゃない。
別に減るもんじゃなし」

呑気に亜衣が追い討ちをかける。

「だろ?」

二人の会話に。

私はもう抵抗することを諦めた。













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