彼と私の優先順位
「……結奈?
本当に……?」



慧が、驚いた声を出す。

返事ができず、立ち尽くす私。

まさか。

今。

千恵ちゃんに、連絡するよう促されたその本人に再会するなんて思いもせず。



……いつか話せたら、と思っていた。

胸の奥に閉じ込めた気持ちがきちんと思い出に変わったら。

胸の痛みを感じずに慧を思い出すことができたら。

あの時より成長した自分になれたら。



それなのに。

今、再会してしまった私はどうしたらいいんだろう。

言葉にならない焦りがこみ上げる。




「……久し振り」

降りかかる穏やかな声に。

ただ意味もなく泣きそうになって。

私は顔を上げることができなくなる。




「……結奈?」

俯いたままの私を覗きこむように下を向く慧に。

私は反射的に一歩、後ずさる。

その瞬間。



「キャッ……!」

ヒールが入り口のマットに引っ掛かって、転びそうになる。

「危なっ……!」

グッと慧が私の腕を掴む。

私を抱きしめるような態勢で慧が支えてくれる。

目の前に飛び込んでくる慧のワイシャツとネクタイ。

あの頃と同じシャツとネクタイでも制服とスーツ姿は全然違っていて。

時間の経過を実感する。

細いストライプの入ったシャツにネイビーの光沢のあるネクタイ。

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