彼と私の優先順位
だけど。



……私を包み込む香りはあの頃と同じで。

記憶にある香りが蘇る。

慧の胸に指先だけを当てて、慌てて私は口を開く。

触れた指先がジワッと熱を持つ。



「ご、ごめ……あ、ありがとう……」

そんな言葉しか口に出せない私に。

慧は魅力的な微笑みを浮かべる。



「相変わらずだな、結奈」

「い、今のは不可抗力で。
いつも転びそうになっているわけじゃ……!」

「違う。
抱きしめた感触の話」

私の腰に片手をまわしたままで、そんなことをサラリと言う慧に私の顔はボンッと赤く染まる。



「も、もう大丈夫だから……ありがとう」

精神力を奮い立たせて、平静さを必死で装って。

慧から一歩後ずさる。

慧の香りも私から離れていく。

「……どういたしまして。
久し振り、結奈」

綺麗な瞳に直視されたままの挨拶に、私は立ちすくむ。




「……そのIDパス……ってことは同じ会社だったんだ……良かった」

無遠慮に慧が私の首に掛かっているIDパスを長い指でつまむ。

「……?」

「……結奈の就職先、奏と亜衣も絶対に教えてくれなかったからさ。
ただ、業界だけは……頼み込んで聞いたんだけど」

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