彼と私の優先順位
「別れてからもずっと好きだった。
だから……中途半端になんて連絡できなかった」




内側から叩かれているような、痛いくらいの鼓動が自分の胸に鳴り響いて。

……胸が詰まる。

頭が真っ白になる。



今、今……。



何て言ったの?

好きだ、って言った?



「け……い?」



目を見開いた私の頬に、慧はそっと優しく人差し指と中指で触れる。

その視線は私を真っ直ぐに見つめていて、逸らすことができない。



「ずっと好きだった」

もう一度繰り返された言葉。



その時。

私の背後でエレベーターが到着して、数人の人が降りてきた。

「あれ?
紬木さん?」

顔見知りの不動産部の方々に声をかけられて。



「お、お疲れ様ですっ」

ハッとする。

ここは不動産部の前で。

私はおつかいを頼まれて、今は完全な勤務中。



「わ、私行かなきゃ……!」

真っ赤な顔のまま、慌てる私に。

「不動産部に用事なんでしょ?
営業第一部の紬木さん」

さっきまでの熱のこもった眼差しはどこへやら、穏やかな微笑みを浮かべる慧。




「館本?
あれ、紬木さんと知り合い?」

マネージャーの松園さんに不思議そうに尋ねられて。

「えっ、あの……」

慌てる私を尻目に、慧は松園さんにアッサリ返事をする。

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