彼と私の優先順位
いつもそう。

今みたいに。

いつの間にか慧のペースに巻き込まれる。

狼狽えることすらなく、涼しい顔で。

付き合う、とか大事な言葉を口にして。

簡単に手を繋いだりする。



私は必死で、これは試されているだけ、からかわれているだけだ、と自分に言い聞かせて、冷静な、突き放したフリをするけれど。

内心では平常心なんて全く保てなくて。

コントロールが全く効かず、私の頬は真っ赤に染まり。

心臓は壊れてしまったかのように速いリズムを刻む。

そんな情けない様子の私を見て。

慧はいつも、とても嬉しそうに甘く笑う。



そう、今だって。

空いている方の手で私の頭をポン、と優しく撫でて。

「ごめん、やりすぎた?」

穏やかな声で話しかけてくる。

真っ赤になっている私は、ただ俯いて黙り込む。



「……結奈に信じてもらえるように、ちゃんと申し込むから」



……そんなことを簡単に言って、また私の気持ちを翻弄する。

一緒に過ごす時間が長くなればなる程。

優しくされればされる程。

甘い言葉を伝えられれば伝えられる程。

意識していなかった筈の隣の席に座る男子のことが気になっていくというのに。

……期待して勘違いをしそうになる自分を必死で戒めているのに。




「ええ?
それって、慧は結奈が好きってこと?」

丸い瞳を輝かせて、亜衣は期待に満ちた声を出す。

「勿論。
結奈は特別だから」

「……っ!」

冗談とも本気ともつかない軽い口調。

そこに極上の笑みを浮かべて、いつも慧は核心部分をうまくかわす。



< 6 / 207 >

この作品をシェア

pagetop