彼と私の優先順位
無理やり考えを中断させるように、時計を食い入るように眺めていた、その時。

スマートフォンが着信を告げた。

液晶画面に慧の名前が表示される。



「は、はい」

思わず上ずる声。

「結奈?
結奈のマンションのエントランスにいるから、支度が終わったら来て」

普段と変わらない、明るく優しい口調の慧。

「う、うん。
支度はできているから……今から降りるね」

マイナスな考えを振り払うように首を横に振って、部屋を出た。



マンション入り口のアプローチ前に慧は立っていた。

裾を折り返した白いパンツにネイビーの半袖シャツ。

何でもないシンプルな装いなのに、慧が身に付けると驚くほど似合っていて、目が惹き付けられる。

長い足に。

俯きがちの顔からサラサラと揺れる髪も。

整いすぎて、視線が釘付けになる。

慧から数歩離れた場所で立ち止まってしまった私を見て、慧がふわっと優しく微笑んだ。



「結奈」



私を呼ぶ声は今日もとても甘くて。

見つめる瞳は何処までも真っ直ぐで視線を逸らせない。



「……やっぱり可愛い」

目を細める慧に。

瞬時に下を向く。

散々迷って。

シンプルなワンピースに華奢なヒールのシルバーのサンダル。

白地に大きな青の花柄がプリントされた私のお気に入りの一着だ。

夏にピッタリでリゾート気分を味わえそうになる。

お気に入りのワンピースを身に付ければ緊張も緩和されるかと思って最終的に決めたものだった。

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