彼と私の優先順位
慧は知っているのだろうか。

今、私が震えそうなくらいに緊張していること。

慧の一挙一動に目を奪われていること。

今も心を捕らわれていることを。



「……慧……どうして……やり直したいの……?」

やっと返せた言葉はそれだけ。

慧はわずかに形の良い目を見開いた。



「……好きだから」

目を伏せて慧は話す。

長い睫毛が慧の頬に影を落とした。



「……結奈と別れて……ずっと考えてた。
何回も結奈に会いに行こうと思った。
でも拒否されたらと思うと……恐かった。
……別れたことを何回も後悔した。
諦めなきゃいけないのかもしれないって何度も思った。
忘れようとも思った。
……だけど無理だった。
諦めようとすればするほど、忘れようとすればするほど、結奈の姿が目に浮かぶんだ。
いないってわかっているのに、何処にいても結奈がいるかもしれないって思ってしまう自分がいて。
あんなに泣かせて辛い思いをさせたのは俺、なのにな……」

クシャッと自嘲気味に慧は髪をかきあげる。

「……信じられなかった。
あの日……あんなに会いたかった結奈が目の前にいて……どうしていいかわからなかった」

「……ウソ、だって……あんなに余裕……」

「まさか。
俺、ずっと緊張してるよ?」



困ったように微笑む慧は少しだけ弱々しくて。

ああ、慧も私と同じだったのかなと思った。

再会して初めて慧と同じスタートラインに立てた気がした。

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