彼と私の優先順位
ああ、もう。

慧はこんな風に簡単に私を翻弄する。

ここは公衆の面前だというにも関わらず。



「……俺のことが嫌い?」

質問を繰り返す慧に。

今度は答える自信がない。

「……嫌いじゃないよ」

そう返すことが精一杯。

「じゃあ、好き?」

眩いばかりの無邪気な笑顔を向けられて。

好き、な気持ちに負けて頷きそうになる。

グッと唇を噛みしめていると。



「……傷になるから止めて」

綺麗な長い人指し指と中指で、慧が当たり前のように私の唇に触れる。

周囲の視線が気になって私はいたたまれず下を向く。

そんな私の心情を知ってか知らずか。

「大丈夫、皆こっちを見てないよ」

クスッとイタズラッ子みたいな視線を向ける慧。

そんなわけないでしょ、と苛立つ気持ちを込めて慧を睨むと。



「……結奈を困らせたいわけじゃないから。
じゃあ、結奈。
結奈が納得できるまで……そうだな……まずは二ヶ月、俺とやり直そう?
二ヶ月経って、結奈が納得したら期限なしで俺と付き合って、お嫁さんになって」

サラリとすごい提案をする慧。



「お、お嫁さんって……!」

「何で?
俺は高校生の時から、ずっと考えてたよ。
俺には結奈が一番大切だから」
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