彼と私の優先順位
「……用事ってわけでもないんだけどさ。
約束っていうか……」

慧にしては珍しく歯切れの悪い口調で。

いつも私をからかうように真っ直ぐ見つめてくる目も微妙に逸らされていて。

何処となく、落ち着きのない慧の様子が気にかかった。



「約束?
誰と?」

「……結奈の知らない奴」

少し苛立ったように前髪を掻きあげながら慧が答える。



「ごめん、また一緒に帰れるようになったら言うから。
……とりあえず帰ろう」

一方的に話を切り上げて、私を促す慧。

「……奏くんと亜衣には言ったの?」

「……メール、しとく」

この話題に返事をするのはこれが最後、と言わんばかりに眉間に皺をよせて、慧が呟く。

何かを隠されているようで、意味がわからない私は小さく溜め息を吐く。



教室から廊下に一歩踏み出した時。

何気なく窓を見て、傘を忘れていることに気付いて。

「……傘、取ってくる」

俯きがちに言う。

「じゃあ、鞄持ってる」

差し出された、見馴れた手に一瞬躊躇して。

鞄を手渡した。

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